2018 年 51 巻 10 号 p. 656-662
症例は79歳の女性で,S状結腸癌穿孔による汎発性腹膜炎に対し,S状結腸切除,人工肛門造設,洗浄ドレナージが施行された.術前CTで左閉鎖孔ヘルニアを認めたが,腸管の嵌頓はなく,閉鎖孔ヘルニアに対する処置は施行されなかった.術後45日目に,左大腿の著明な腫脹と疼痛が出現しCTで左閉鎖孔周囲から大腿に広範な膿瘍を認めた.大腿筋群の壊死性筋膜炎を併発しており,緊急のデブリードマン手術が施行された.その後,再度のデブリードマン手術と陰圧閉鎖療法,分層植皮術を要した.本例は閉鎖孔ヘルニア囊内に形成された遺残膿瘍が,大腿に波及したものと考えられた.消化管穿孔術後に,併存する閉鎖孔ヘルニア囊内に遺残膿瘍が形成された初めての報告である.ヘルニアの併存が認識された場合には,大腿膿瘍や壊死性筋膜炎を併発する可能性を念頭に置き,遺残膿瘍を予防する処置を行うべきである.