日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
自己免疫性膵炎とIgG4関連硬化性胆管炎による肝臓の炎症性偽腫瘍を同時に認めた1症例
笹倉 勇一尾澤 巖白川 博文富川 盛啓菱沼 正一尾形 佳郎星 暢夫
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2020 年 53 巻 6 号 p. 496-503

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Abstract

症例は66歳の男性で,前医において肝機能異常を契機に肝腫瘤を指摘され当センターに紹介となった.肝S7の腫瘤以外に膵尾部にも腫瘤性病変を認めた.画像上確定診断が困難であり,切除の方針とした.術中超音波検査で複数の肝腫瘤を確認後,膵尾部腫瘤の診断確定のため脾温存膵尾部切除術を施行,術中迅速病理診断で炎症性腫瘤と診断された.その結果を踏まえ肝腫瘤の針生検を施行し,同様に炎症性腫瘤と診断された.病理組織学的にIgG4関連疾患(IgG4-related disease;以下,IgG4-RDと略記)と診断された.肝腫瘤あるいは膵腫瘤を認めかつIgG4高値の場合には,IgG4-RDの可能性があり生検または超音波内視鏡下穿刺吸引法(endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration;以下,EUS-FNAと略記)を積極的に考慮すべきと考えられた.

Translated Abstract

A 66-year-old man was found to have an elevated liver enzyme level and a tumor in the liver by his family doctor and was admitted to our hospital for treatment. A tumor in the liver in Segment 7 and a tumor in the tail of the pancreas were identified at preoperative examinations. Imaging diagnosis was very difficult. Therefore, he underwent surgery for diagnosis and curative treatment. Intraoperative US revealed multiple tumors in the liver. For the purpose of confirming the diagnosis of the tumor in the tail of the pancreas, spleen preserving distal pancreatectomy was performed. Intraoperative specimen of the tail of the pancreas showed inflammatory pseudotumor (IPT). Intraoperative biopsy specimen of the liver showed IPT. Both tumors were histopathologically diagnosed as IgG4-related disease (IgG4-RD). In the case of pancreatic or hepatic tumors with elevated levels of serum IgG4, biopsy or endoscopic ultrasound-guided fine needle aspiration could be considered owing to the possibility of IgG4-RD.

はじめに

自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis;以下,AIPと略記)は,1995年に本邦のYoshidaら1)により提唱された疾患であるが,その後IgGのサブクラスの血中IgG4値が上昇することが判明し2),現在ではAIPは全身病であるIgG4関連疾患(IgG4-related disease;以下,IgG4-RDと略記)3)の膵病変と認識されるに至っている.また,IgG4関連硬化性胆管炎(IgG4-related sclerosing cholangitis;以下,IgG4-SCと略記)は,IgG4-RDの胆管病変とされており,しばしばAIPに合併するとされる.

今回,我々はAIPによる膵腫瘤とIgG4-SCによる肝臓の炎症性偽腫瘍(inflammatory pseudotumor;以下,IPTと略記)を同時に認めた1例を経験した.いずれも悪性疾患との鑑別が困難であり,切除および生検で確定診断を得た.非常に示唆に富む症例と考え若干の文献的考察を加え報告する.

症例

患者:66歳,男性

主訴:なし.

家族歴:特記すべきことなし.

既往歴:糖尿病でインスリン治療中.

現病歴:前医に糖尿病コントロール目的に入院中,血液検査で肝機能異常を指摘された.腹部超音波検査で肝腫瘤を認め,当センターを紹介来院した.

入院時血液検査所見:白血球増多を認めた他に低アルブミン血症とγ-GTP高値を認めた.腫瘍マーカーはいずれも正常範囲内であった.IgGは3,140 mg/dl(基準値:870~1,700),IgG4は1,510 mg/dl(基準値:11~121)といずれも高値を認めた(Table 1).

Table 1  Laboratory data on first medical examination at our center
Hematology ALT 24 IU/l
WBC 12,140/μl ALP 304 IU/l
RBC 443×104/μl γ-GTP 111 IU/l
Hb 14.7 g/dl LDH 172 IU/l
Ht 43.1% BUN 14.7 mg/dl
Plt 23.2×104/μl Cr 0.92 mg/dl
CRP 0.37 mg/dl
Tumor markers HbA1c 12.7%
CEA 5.5 ng/ml
CA19-9 17.8 U/ml Serological tests
AFP 3 ng/ml HBsAg (−)
PIVKA-II 21 nAU/ml HCVAb (−)
ANA (−)
Biochemistry IgG 3,140 mg/dl
Alb 3.5 g/dl IgA 113 mg/dl
T-Bil 0.6 mg/dl IgM 51 mg/dl
AST 24 IU/l IgG4 1,510 mg/dl

腹部造影CT所見:肝S7に約30 mm大の境界不明瞭な低濃度の腫瘤性病変を認めた.造影効果に乏しく,腫瘤辺縁域は時間経過とともに背景肝と同程度に造影された(Fig. 1a).膵尾部には低濃度の腫瘤性病変を認めた(Fig. 1b).

Fig. 1 

CT revealed a low density tumor with marginal enhancement in the liver in S7 in the early phase (a). CT revealed a low density tumor in the tail of the pancreas in the early phase (b).

腹部Gd-EOB-DTPA造影MRI(EOB-MRI)所見:肝S7に径25 mm大のT2強調画像で高信号,T1強調画像で境界不明瞭な低信号を示し,拡散強調画像で高信号を示す腫瘤性病変がみられた.腫瘤辺縁には造影効果が認められたが(Fig. 2a),内部は明確な造影効果は示さなかった.肝細胞相ではEOBの残留を示唆する淡い低信号を示した(Fig. 2b).膵尾部には径約20 mmのT1強調画像で淡い低信号を示し(Fig. 2c),緩徐に造影される腫瘤性病変を認めた.

Fig. 2 

EOB-MRI demonstrated a low intensity tumor with marginal enhancement in the liver in S7 (a). EOB-MRI demonstrated a low intensity tumor in the hepatobiliary phase (b). T1-weighted imaging demonstrated a low intensity tumor in the tail of the pancreas (c).

腹部造影超音波検査所見:肝S7に29×26 mm大の辺縁不整な低エコー腫瘤を認めた(Fig. 3a).Sonazoid®造影超音波検査では,造影早期より濃染し,約20秒後より造影効果は減弱した.10分後の後血管相ではほぼ完全欠損像を呈した(Fig. 3b).膵尾部には28×20 mm大の境界明瞭な腫瘤を認め,腫瘤自体に明らかな造影効果はみられなかったが,腫瘤内にわずかなバブルの存在は認められた.

Fig. 3 

Abdominal US revealed low echoic lesion in the liver in S7 (29×26 mm). This lesion was enhanced in the early phase and was washed out 20 seconds later (a). 10 minutes later, this lesion showed an enhancement defect (b).

以上より,膵尾部腫瘤に関しては積極的に悪性を疑う所見は認められず,IgG4が高値であることからAIPを疑った.超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasound;以下,EUSと略記)での精査に関しては,本症例の診断時において当センターでは導入しておらず施行しえなかった.一方肝S7の腫瘤に関してはIPTあるいは肝膿瘍が疑われたが,画像上確定診断が困難であり転移性肝腫瘍など悪性疾患の可能性も否定できないことから播種の危険性を考慮し針生検は行わずに切除の方針とした.

手術所見:肝S7に径30 mm大の腫瘤を触知した.術中超音波検査で肝S7に不整形の低輝度腫瘤を認めた他にS8,S4にも同様の腫瘤を確認した(Fig. 4).Bull’s eye様の転移性肝腫瘍を疑う所見であった.また,膵尾部にも径15 mm大の低輝度腫瘤を確認した.術中超音波検査の結果,膵尾部癌の多発肝転移病変の可能性も否定できないため,膵腫瘤の確定診断目的に脾温存の膵尾部切除術を施行した.膵尾部癌の可能性を考慮したことから針生検ではなく切除を選択したが,膵尾部の腫瘤は術中迅速病理診断で炎症性腫瘤と診断された.また,肝腫瘤も炎症性腫瘤である可能性を考え,S7腫瘤より針生検を施行したところ,術中迅速病理診断で同様に炎症性腫瘤と診断された.

Fig. 4 

Intraoperative US revealed low echoic lesion in the liver in S7, S8 and S4.

術前の血液検査でIgG4高値であったことも勘案し,両病変ともIgG4-RDによる腫瘤性病変で悪性所見はないと判断し肝腫瘤の切除は行わずに手術終了とした.

病理組織学的検査所見:肉眼的に膵実質は保たれている一方で,一部に白色調から灰白色調の腫瘤様部位が存在した(Fig. 5a).同部位は組織学的に巣状の線維化巣をなしており,リンパ球・形質細胞主体の炎症細胞浸潤を伴っていた(Fig. 5b).免疫染色検査で炎症細胞浸潤部位にはIgG4陽性形質細胞を強拡大視野に181個程認めた(Fig. 5c).周囲の膵実質では小葉間に線維化が生じており,前述同様の炎症細胞浸潤がみられた.以上の所見はlymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis(以下,LPSPと略記)に相当し,AIPとして合致するものと判断された.肝針生検検体では,腫瘤病巣に一致して高度の炎症細胞浸潤があり,膵病変同様にリンパ球・形質細胞が主体であった.また,病巣内には線維成分の増生もありIPTの組織像であった(Fig. 6a).IgG4陽性形質細胞を多数認めることより,IgG4-SCと診断された(Fig. 6b).

Fig. 5 

Macroscopic findings of the resected specimen of the pancreas shows a white tumor with largest diameter of 10 mm (a). Histological examination shows infiltration of lymphocytes and plasma cells with fibrosis (HE ×100) (b). Immunohistochemistry using anti-human IgG4 antibody shows IgG4-positive plasmacytes in the pancreas (×100) (c).

Fig. 6 

Histological examination of the liver shows infiltration of lymphocytes and plasma cells with fibrosis (HE ×100) (a). Immunohistochemistry using anti-human IgG4 antibody shows IgG4-positive plasmacytes in the liver (×100) (b).

術後経過:術後biochemical leakを認めたが,その他特記すべき合併症なく経過,第14病日に退院した.現在外来経過観察中であるが,特に症状なく経過している.症状出現の際にはステロイド治療を検討する方針である.

考察

AIPは,1995年に本邦のYoshidaら1)により提唱された疾患である.それ以前に本邦のKawaguchiら4)は強いリンパ球,形質細胞浸潤を伴う線維化を特徴とする特異な膵炎であるLPSPを報告しており,LPSPとAIPは同一の疾患概念とされている.その後2001年にIgGのサブクラスの血中IgG4値が上昇することが判明し2),さらに2003年にKamisawaら5)により膵臓を含めた全身病としてのIgG4関連硬化性疾患の概念が提唱され,現在AIPはIgG4-RDの膵病変と認識されるに至っている.そして従来原因不明とされていた胆道,涙腺,唾液腺,後腹膜,甲状腺,リンパ節など多数の臓器の腫瘤,硬化性病変の一部がIgG4-RDに関連するものとされている5).IgG4-RDは組織学的にリンパ球,IgG4陽性形質細胞の浸潤と線維化,閉塞性静脈炎などの特徴的な病理組織所見を呈し,またステロイド治療が有効なことが多いなどの特徴があるとされる3).本症例では術前に血中IgG4高値ではあったが,悪性腫瘍の可能性が除外できないことからステロイド療法は考慮しなかった.

IgG4-SCはIgG4-RDの胆管病変と認識されており,原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis;PSC)とは異なる臨床像,病理像を呈し,しばしばAIPに合併するとされる.

IPTは種々の主要臓器に認められ,病理学的には筋線維芽細胞の不規則な増殖と主にリンパ球や形質細胞などの炎症細胞浸潤による腫瘍様の病変である.肝臓のIPTには,IgG4-SCと関連したlymphoplasmacytic typeと関連のないfibrohistiocytic typeがあり6),本症例は病理組織学的に前者に相当した病変であった.

肝IPTの画像所見に関しては,造影CTで造影効果を認め,EOB-MRI肝細胞相で欠損像を呈する7)~9)との報告があるが,これらは転移性肝腫瘍など悪性腫瘍の所見とも合致するものであり鑑別は困難である.超音波では,低エコーを示し,Sonazoid®造影では動脈相で造影効果を認め,門脈相で減弱し,後血管相で欠損像を呈する9)10)との報告があり,これらは本症例とも一致していた.また,AIPの画像所見に関しては,膵臓のびまん性腫大が特異性の高い所見とされるが,本症例のように限局性腫大を認めた場合膵癌との鑑別が問題となる.Sonazoid®造影では,AIPは腫瘤全体が濃染され,膵癌は腫瘤の辺縁のみが濃染される11)との報告があり,両者の鑑別に有用である可能性が示唆されている.

AIPと肝臓のIPTを同時に認めた症例はまれであり,医学中央雑誌(1964~2018年)で「肝炎症性偽腫瘍」,「自己免疫性膵炎」,PubMed(1950~2018年)で「hepatic inflammatory pseudotumor」,「autoimmune pancreatitis」をキーワードに検索したかぎりでは自験例を含め6例の報告があるのみであった(Table 212)~16).Kannoら12)はIgG4関連の肝臓のIPTを報告し,Sasahiraら13)も形質細胞の浸潤を認めた肝臓のIPTを報告している.Uchidaら14)はIgG4に関連する免疫学的な機序がIPTの形成に関わっている可能性に関して報告をしている.また,飯塚ら15)H. pylori除菌療法後にAIPと肝IPTが自然軽快した1例を報告し,片岡ら16)は膵石を伴うAIPと肝IPTが合併した1例を報告している.

Table 2  Cases of autoimmune pancreatitis and inflammatory pseudotumors of the liver associated with IgG4-related sclerosing cholangitis collected from literatures
No. Author/Year Age Sex Definitive diagnostic procedure Outcome
1 Kanno12)/2005 48 M Hepatectomy for mass reduction Masses disappeared after steroid therapy
2 Sasahira13)/2005 59 M Perctaneous biopsy of the liver masses Masses disappeared after steroid therapy
3 Uchida14)/2007 54 M Perctaneous biopsy of the liver masses Masses disappeared naturally
4 Iizuka15)/2012 74 M Perctaneous biopsy of the liver masses Masses disappeared naturally
5 Kataoka16)/2017 79 M Perctaneous biopsy of the liver masses Masses disappeared after steroid therapy
6 Our Case 66 M Intraoperative biopsy of the liver masses Masses disappeared naturally

本症例では外科的切除を第1に選択したが,術前のIgGおよびIgG4が高値であったことや膵腫瘤に関して画像所見上積極的に悪性を疑う所見を認めなかったことから,術前にEUSを施行し,その所見によってはEUS-FNAを選択すべきであった.また,肝腫瘤に関しても積極的には悪性が疑われなかったことから術前に経皮的針生検を考慮すべきであった.

IgG4陽性形質細胞の浸潤を伴う膵腫瘤と肝臓のIPTを同時に認めたまれな1例を経験した.これらは近年新しい疾患概念として確立された全身性疾患であるIgG4-RDの膵・肝病変に相当すると考えられる.今回,我々は外科的切除を選択したが,EUS-FNAや経皮的針生検を行うことで確定診断がつけば不要な手術を回避できた可能性があり反省すべきであった.今後本症例のような症例に遭遇した場合では悪性腫瘍の可能性も念頭に置きつつも,診断の第一選択としてはEUS-FNAや経皮的針生検を考慮すべきと考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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