日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
術中内視鏡を併用したKillian-Jamieson憩室の1切除例
今村 沙弓西川 和宏浜川 卓也小林 雄太三代 雅明高橋 佑典三宅 正和宮本 敦史加藤 健志森 清平尾 素宏
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2022 年 55 巻 1 号 p. 10-17

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Abstract

症例は69歳の女性で,1か月前から嚥下時違和感を自覚し,左頸部の圧痛,嗄声も認めていた.精査で食道左側に憩室を認め,有症状の食道憩室として頸部外切開による食道憩室切除術を施行した.術中に内視鏡とバルーンを併用することで食道と憩室の位置関係を把握しKillian-Jamieson憩室との診断に至った.切除後もバルーンを用いて食道内腔の狭窄がないことを確認しながら筋層縫合を行った.その後も嚥下機能障害,食道狭窄,憩室の再発なく現在まで経過している.Killian-Jamieson憩室はまれな食道憩室であり,多くは無症候性であるが,時に嚥下困難や逆流症状を来し手術加療が考慮される.Killian-Jamieson憩室はZenker憩室と比較して解剖学的に反回神経に近い場所から発生し,また憩室の発生機序に輪状咽頭筋が関与しないと考えられているため,両者を正しく鑑別することが重要である.我々が用いた食道憩室手術における術中内視鏡でのバルーン併用は憩室の診断と手術時の合併症防止に有用である可能性が示唆された.

Translated Abstract

A 69-year-old woman was admitted to our hospital after suffering from dysphagia, left cervical tenderness and hoarseness for 1 month. A diverticulum from the left side of the esophagus was detected, and resection of the diverticulum was performed through an external cervical incision. During surgery, balloon-assisted endoscopy was used for diagnosis of a Killian-Jamieson diverticulum. When suturing the muscular layer of the esophagus, balloon-assisted endoscopy was used again to prevent stenosis of the esophageal lumen. The operation was performed without complications and the patient has been free of dysphagia, esophageal stricture, and recurrent diverticula postoperatively. Killian-Jamieson diverticulum is relatively rare and often asymptomatic, but may occasionally cause dysphagia or esophageal reflux symptoms. Compared to a Zenker diverticulum, a Killian-Jamieson diverticulum arises anatomically closer to the recurrent laryngeal nerve, and the cricopharyngeal muscle may not be implicated as a cause. To avoid intraoperative injury of recurrent laryngeal nerve and unnecessary cricopharyngeal myotomy, it is important to distinguish between Killian-Jamieson and Zenker diverticula. Our case shows that balloon-assisted endoscopy is useful for diagnosis of the diverticulum and prevention of intraoperative complications.

はじめに

本邦における食道造影による食道憩室の発見頻度は0.2%~1.4%と報告されており1),比較的まれな疾患といえる.食道憩室の多くは無症状で健診などにより偶然発見されるが1),最も多い症状として嚥下困難が挙げられ2),他に不消化物の逆流や口臭など,症状は多岐にわたる.

なかでもKillian-Jamieson憩室は食道憩室の中でも15%程度のまれな憩室であり,89%は無症候性である3).治療は憩室切除術が一般的であるが,輪状咽頭筋の切開に関しては見解が分かれる4).今回,我々は有症状のKillian-Jamieson憩室に対して待機的に手術を行った症例を経験したので報告する.

症例

患者:69歳,女性

現病歴:1か月前からの嚥下時の違和感,左頸部の圧痛,嗄声を主訴に近医を受診した.上部消化管内視鏡検査,頸~胸部単純CTで食道憩室の穿孔による膿瘍形成が疑われたため,同日当院に緊急搬送となった.

既往歴:高血圧症,子宮内膜症に対して子宮全摘術(19年前),左膝人工関節置換術(10年前)

内服薬:ランソプラゾール15 mg,テルミサルタン・アムロジピンベシル酸塩配合剤錠,ニフェジピン40 mg,プレゼニド12 mg,L-アスパラギン酸カルシウム水和物錠400 mg,エルデカルシトールカプセル0.75 μg

入院時現症:Vital Signs:BT 37.4°C,HR 94回/分,BP:144/89 mmHg,SpO2:98%(room air)

頸部に発赤・腫脹はないが軽度圧痛あり.口臭あり.腹部は平坦・軟,自発痛・圧痛なし.

上部消化管内視鏡検査所見:食道入口部直下左側に食道憩室あり,内腔には残渣を認めた(Fig. 1).輪状咽頭筋との位置関係は明らかではなかった.

Fig. 1 

EGD showed an esophageal diverticulum and a residue inside.

食道造影検査所見:食道左側に憩室あり,内部に造影剤の貯留を認めた(Fig. 2).造影剤の腔外への漏出像はなかった.

Fig. 2 

An upper gastrointestinal series showed a diverticulum on the left side of the esophagus.

胸部造影CT所見:頸部食道左側に食道と連続する25×16×17 mmの腔を認め,食道憩室が疑われた(Fig. 3).同部位で壁肥厚を認めたが,周囲の炎症所見には乏しく,明らかな穿孔を疑う所見を認めなかった.咽頭周囲炎や縦郭炎を示唆する所見はなかった.

Fig. 3 

A, B. Contrast CT showed no findings suggesting perforation of the diverticulum.

喉頭ファイバースコープ検査所見:反回神経麻痺を示唆する所見を認めなかった.

血液検査所見:白血球数:7,300/μl,赤血球数:451×104/μl,Hb:14.4 g/dl,Ht:37.2%,血小板数:42.2×104/μl,PT:111.0%,PT-INR:0.94,APTT:33.6秒,総ビリルビン:0.6 mg/dl,血清総蛋白:7.1 mg/dl,血糖:137 mg/dl,尿素窒素:11.0 mg/dl,クレアチニン:0.51 mg/dl,ナトリウム:143 mEq/l,カリウム:3.2 mEq/l,クロール:103 mEq/l,AST:25 U/l,ALT:15 U/l,ALP:248 U/l,LD:200 U/l,CRP:0.02 mg/dl,CEA:20.7 ng/ml,SCC:3.5 U/ml,TSH:2.16 μIU/ml,Free T3:2.85 Pg/ml,Free T4:1.38 Ng/dl

入院後経過:当院での検査結果からは憩室穿孔を疑う所見を認めず,有症状の食道憩室として待機的に手術を行う方針とした.各種術前検査からは食道憩室と輪状咽頭筋の位置関係は確認できず,術前に憩室の分類は診断できなかった.

手術所見:全身麻酔下,仰臥位左頸部伸展位にて術中内視鏡的バルーンを併用した憩室切除・縫合術を施行した.左胸鎖乳突筋前縁に沿って斜切開をおいた.胸鎖乳突筋を剥離し,内頸静脈と総頸動脈を同定し,総頸動脈の内縁に沿って剥離を進めた.甲状腺が食道に付着する高さからやや頭側にかけて,食道左壁に憩室を同定した.また,気管と食道の間を走る左反回神経を同定した.憩室前面に迷走神経本枝と食道枝が引きつれるように癒着しており,これらを鈍的鋭的に剥離した.ここで,憩室存在部位の同定と憩室切除後の狭窄予防のために術中内視鏡を併用した.上部消化管内視鏡からバルーンを挿入して食道を拡張することで正確に輪状咽頭筋を同定した(Fig. 4A).憩室は輪状咽頭筋より尾側・左前側方で食道輪状筋の間から側方に突出し(Fig. 4B),食道縦走筋の外側から発生していた(Fig. 5)ため,Killian-Jamieson憩室と診断した.術野から憩室を圧迫して憩室内の残差を食道内に圧出し,内視鏡で洗浄した.再度憩室と食道本幹,反回神経や甲状腺などの周囲の重要組織を解剖学的に確認し(Fig. 6A),バルーンを用いて食道内腔を保ちながら憩室をlinear stapler(iDrive Camel 45)で切除した(Fig. 6B).内視鏡から送気してリークテストを行い,陰性であった.同様にバルーンを用いて食道内腔の狭窄がないことを確認しながら食道壁の筋層縫合を行った.手術時間は3時間44分で,出血量は30 mlであった.

Fig. 4 

A, B. Intraoperative EGD indicated a relationship between the diverticulum and the cricopharyngeal muscle.

Fig. 5 

The diverticulum was from the lateral side of the longitudinal muscle of the esophagus.

Fig. 6 

A, B. Intraoperative photograph showing the relationship of the recurrent laryngeal nerve to the Killian-Jamieson diverticulum. The diverticulum was resected using a linear stapler while maintaining the esophageal lumen by inflating the balloon.

病理組織学的検査所見:明らかな筋層を伴わない仮性憩室であり,一部ではびらんを形成し近傍の上皮下にリンパ球主体の炎症細胞浸潤を伴っていた.明らかな悪性所見は指摘できなかった(Fig. 7).

Fig. 7 

A, B. Histopathological findings showed no evidence of malignancy.

術後経過:術後バイタルサインは安定して推移し,術翌日にICUを退室した.術後6日目に食道造影検査を行い,縫合不全を疑う造影剤の漏出像がなく,誤嚥も認めないことを確認し,経口摂取を再開した.嗄声や頸部違和感,炎症反応の上昇は認めずに経過し,術後14日目に退院した.その後も嚥下機能は良好に保たれ,術後4年の現在まで食道狭窄や憩室の再発は認めていない.

考察

上部食道憩室は下咽頭および頸部食道に発生した憩室であり1),下咽頭収縮筋と輪状咽頭筋の間(Killian’s triangle)から発生するZenker憩室と,輪状咽頭筋直下・食道輪状筋上で食道縦走筋外側から発生するKillian-Jamieson憩室,輪状咽頭筋と食道縦走筋の間から発生するLaimer憩室に分類される1)2)これら三つの憩室の解剖学的な位置関係は背側からみて図のようになる(Fig. 8).Zenker憩室が全体の70%を占め,Killian-Jamieson憩室はその1/4程度の頻度,Laimer憩室は非常にまれとされる2)

Fig. 8 

Classification of diverticula by anatomical location.

Zenker憩室の発生要因は輪状咽頭筋の弛緩不全とそれに伴う上部食道括約筋異常と考えられているが3),Killian-Jamieson憩室はその発生原因が明らかにはなっていない5).Killian-Jamieson憩室の症状はZenker憩室に比べ一般に軽微である4).実に89%が無症状であり,画像検査により偶発的に発見されることが多い4).症候性であった場合に最も一般的な症状は嚥下障害であり,次に嚥下時の違和感が続く6).嚥下困難を主訴とした854例に上部消化管内視鏡検査を施行したところ,1.9%(16例)にKillian-Jamieson憩室を認めたとEkbergら7)が報告した.その他にも不消化物の逆流や口臭など症状は多岐にわたる.蜂巣炎を伴った例も報告されている2).自験例は嚥下困難を主訴に来院し,診察時頸部の圧痛・口臭を伴い多彩な症状を呈しており,Killian-Jamieson憩室の中では比較的少数派のケースであった.また,食道憩室は癌発生母地となることが知られているが,突如とした誤嚥性肺炎や疼痛,出血がみられる場合は憩室に扁平上皮癌が伴う可能性を念頭に置く必要があり,頻度として食道憩室症例の0.7~1.1%と報告されている2)

1970年から2016年12月の本邦でのKillian-Jamieson憩室の報告例10例2)8)~12)を佐々木ら5)がまとめている.以降の2017年1月から2020年9月の期間で医学中央雑誌(検索キーワード:「Killian-Jamieson憩室」,「食道憩室」会議録を除く)で検索しえたかぎりは3例報告13)14)があり,累計でも自験例を含めて計14例に留まる(Table 1).Killian-Jamieson憩室は無症候性のことが多く発覚しづらい点や,疾患認知度の低さから正しい診断を得られていない可能性がある点が報告例の少ない原因として考えられる.本邦で報告された14例は,男性6例,女性8例であった.主訴は嚥下障害が6例,無症状が4例,頸部浮腫が2例,咽頭不快感と咳嗽がそれぞれ1例ずつであった.食道左側が12例,右側が2例と左側に多く,これは食道が咽頭入口部から頸部で左側に偏移しており,左側へ圧がかかりやすいためと推察されている5).14例の憩室の大きさの平均は20.4 mmであった.Haddadら6)が検討した米国での59例においても平均は21.0 mmであり,ほぼ類似した値であった.同文献で症候性の憩室の平均は25 mmであるのに対し,無症候性では13 mmと差を認めたと報告された.今回の検討においても,症候性憩室は無症候性憩室よりもサイズが大きい傾向にあり(22.2 mm vs 12.7 mm),憩室の大きさと症状に関連がある可能性が示唆された.本邦での報告された無症状のKillian-Jamieson憩室の症例は全例で経過観察となっていた.近年世界的に徐々に報告例が増えつつある内視鏡的治療は本邦では1例に留まり,治療が行われたその他全ての症例に手術が行われていた.

Table 1  Reported cases of Killian-Jamieson diverticulum
No. Author Year Age/Sex Chief complaint Side Size (mm) Treatment
1 Lee8) 2008 50/F dysphagia left 16 endoscopic diverticulotomy
2 Kitazawa9) 2010 53/F swelling left 45 surgery (surgical stapling device)
3 Niihara2) 2013 71/M dysphagia left 15 surgery (ligation resection)
4 Yamaguchi10) 2014 79/F no symptoms left 21 follow-up
5 Yamaguchi10) 2014 65/M no symptoms left 16 follow-up
6 Yamaguchi10) 2014 78/M no symptoms left 13 follow-up
7 Tanishima11) 2014 60/M dysphagia left 30 surgery (surgical stapling device)
8 Ishinaga12) 2016 69/M cough right 78 surgery (surgical stapling device)
9 Ishinaga12) 2016 54/F dysphagia left 20 surgery (surgical stapling device)
10 Sasaki5) 2018 50/F swelling right 28 surgery (surgical stapling device)
11 Ota13) 2018 68/M no symptoms left 14 follow-up
12 Saisho14) 2020 58/F pharyngeal discomfort left 25 surgery (surgical stapling device)
13 Saisho14) 2020 77/F dysphagia left 20 surgery (diverculopexy)
14 Our case 69/F dysphagia left 25 surgery (surgical stapling device)

一般に食道憩室に対する術式は①憩室切除術,②輪状咽頭筋切開術,③憩室固定術,④憩室隔壁切開術があげられるが,Killian-Jamieson憩室に有効とされる治療法は確立されていない15).本邦で報告された14例中,本症例を含む6例に手術用ステープラーで憩室の切除を施行され,結紮切離,手縫い縫合,憩室固定術がそれぞれ1例ずつ報告されている.Zenker憩室では外科手術のほかに,内視鏡的隔壁切開により加療されることもあるのに対して,Killian-Jamieson憩室では基本的には手術加療が望ましいと考えられる.これは両憩室の解剖学的部位の差異に起因しており,Killian-Jamieson憩室は反回神経の喉頭入口部のごく近傍に発生するため,Zenker憩室より術中反回神経損傷のリスクが高いと考えられることが理由としてあげられる.よって,Killian-Jamieson憩室の手術においては反回神経損傷を予防することが非常に重要である12).手術時の皮膚切開は皮膚割線に沿って為された報告もあるが,確実な反回神経の温存のためには頸部外切開がやはり標準的である16).自験例でも頸部外切開でアプローチすることで左反回神経を確実に温存し,術後に麻痺症状を合併することなく安全に手術を施行できた.また,反回神経と憩室との解剖学的な関係を理解するためには,憩室の発生部位を正確に評価し憩室を分類する必要がある.Zenker憩室の発生要因は輪状咽頭筋の弛緩不全とそれに伴う上部食道括約筋異常と考えられているため,輪状咽頭筋切開を行うことにより食道内圧の低下が期待できるが17),Killian-Jamieson憩室の発生原因は輪状咽頭筋とは関係しない可能性が高いと分かってきている5).よって正しく両者を鑑別することができれば術中反回神経損傷のリスクを下げるだけでなく,不要な輪状咽頭筋切開を省略することにより術後の誤嚥を予防することができる.

Zenker憩室とKillian-Jamieson憩室の鑑別には食道造影検査が分類に有用であるとする文献12)もあるが,実際は自験例のように術前には判然としない例も報告される2).こういった場合,術中経鼻胃管から送気することで憩室が膨張し,憩室が視認しやすくなるとされている.しかし,新原ら2)は甲状腺生検後の症例において経鼻胃管では甲状腺への癒着によって有効な憩室の膨張が得られず,術中内視鏡を併用することが有用であったと報告した.同様に,頸部蜂巣炎を伴った症例の外科手術の報告例1)でも,術中内視鏡の併用が推奨されている.自験例においても術中内視鏡でバルーンを併用することで,輪状咽頭筋との位置を把握し,憩室の正確な位置判断を行い,反回神経を安全に温存し,不要な輪状咽頭筋切開を防ぐことができた.憩室を大きく切除すると術後に食道瘢痕拘縮となり,逆に不十分な切除は再発および症状の改善が得られない可能性がある18)ため,憩室切除の際は過不足のなく切除することが重要である.バルーンを用いることで憩室を膨張させたまま,食道長軸方向と平行にステープリングできるため,これまで食道ブジーや経鼻胃管によって行われてきた縫縮・補強の際の狭窄予防の一助となるとも考えられた.本邦では内視鏡でバルーンを併用してKillian-Jamieson憩室の手術を行った症例の報告は本症例が初めてである.

Killian-Jamieson憩室では,術中反回神経損傷と無用な輪状咽頭筋切開を避けるためにZenker憩室との鑑別が肝要である.食道憩室手術における術中内視鏡でのバルーン併用は,より正確に食道憩室を診断し,手術時の合併症防止にも有用であると思われた.

利益相反:なし

文献
 

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