2022 年 55 巻 11 号 p. 684-691
腹腔動脈起始部狭窄を伴う膵頭十二指腸切除術症例で術前・術中診断で正中弓状靭帯切開術が不要と判断したものの,術後に上腹部臓器虚血が判明し緊急の正中弓状靭帯切開術により救命しえた1例を経験した.症例は64歳の女性で,術前CTで腹腔動脈起始部狭窄を認めたが胃十二指腸動脈などを介する側副血行路の発達は認めなかった.術中胃十二指腸動脈クランプテストでは肝動脈血流低下を認めず正中弓状靭帯切開術は不要と判断した.しかし,術翌日に肝膵逸脱酵素の著明な上昇,腹腔動脈起始部狭窄の増悪,肝外側区域と胃・残膵・脾臓に虚血を認め緊急で正中弓状靭帯切開術を施行した.術中に肝動脈血流再開が確認され,術後は臓器虚血の改善を認めた.腹腔動脈起始部狭窄を伴う膵頭十二指腸切除術症例では正中弓状靭帯切開が不要と判断した場合でも,術後の循環呼吸動態や後腹膜組織の浮腫性変化などにより腹腔動脈起始部狭窄が増悪する可能性が示唆された.