2022 年 55 巻 7 号 p. 432-439
平滑筋腫は良性であり,本来はFDG-PETで陰性を呈する.今回,我々は比較的まれなFDG集積亢進を伴う胃平滑筋腫を経験したので報告する.症例1は49歳の男性で,食道胃接合部から胃噴門部を主座とする粘膜下腫瘍にSUVmax 8.17のFDG異常集積を認めた.症例2は27歳の男性で,胃噴門部に潰瘍形成を伴う粘膜下腫瘍を認め,SUVmax 6.13のFDG集積亢進を認めた.どちらも悪性の可能性を考慮して腹腔鏡下噴門側胃切除術を施行し,胃平滑筋腫という診断を得た.平滑筋腫にFDG集積亢進を認める原因として,腫瘍の血流増加やglucose transporterの過剰発現の関与が示唆された.良性の平滑筋腫でもPET-CTで偽陽性を示す可能性があり,これを考慮した鑑別診断が必要である.非侵襲的な方法による筋原性粘膜下腫瘍の良悪性の鑑別は困難と考えられ,その検査法の確立は今後の課題である.
Leiomyomas are benign tumors that are often negative on 18F-FDG-PET. Here, we report two relatively rare cases of gastric leiomyoma with increased FDG accumulation. In case 1, a 49-year-old man was admitted to our hospital for a submucosal tumor that showed strong FDG accumulation with a maximum standardized uptake value (SUVmax) of 8.17 from the esophagogastric junction to the gastric cardia. In case 2, a 27-year-old man visited our hospital because of an abnormal examination. A submucosal tumor with an ulcer was found in the gastric cardia. FDG-PET showed abnormal FDG accumulation with SUVmax 6.13. In both cases, laparoscopic proximal gastrectomy was performed based on the possibility of malignancy, and both tumors were diagnosed as gastric leiomyoma. The causes of increased FDG accumulation in leiomyoma may be increased blood flow in the tumor and overexpression of glucose transporter. A differential diagnosis is required because even benign leiomyoma may show false positives on FDG-PET. It is difficult to distinguish between benign and malignant myogenic submucosal tumors using a non-invasive method, and there is a need for establishment of appropriate examinations.
平滑筋腫は細胞分裂の活性が低く,通常はFDG-PETで集積を認めない良性の疾患である.今回,我々はFDG-PETで集積亢進を呈した胃原発の平滑筋腫を2例経験した.消化管原発間葉系腫瘍のうち平滑筋腫の発生頻度が6.8%であること,そのうち胃原発の占める割合は16.7%であることを考慮すると,PET-CTで陽性を呈する胃平滑筋腫は希少であることが示唆されるので,文献的考察を加えて報告する1).
症例1:49歳,男性
主訴:なし.
既往歴:高血圧,脂質異常症
喫煙歴:20本/日(20歳~49歳)
飲酒歴:1合/日(20歳~49歳)
現病歴:2020年6月,腹痛を主訴に近医を受診した際,造影CTで腹腔動脈および総肝動脈解離を認め,前医入院となった.降圧療法にて加療され退院した.入院時のCT所見で食道胃接合部から噴門部を主座とする粘膜下腫瘍を指摘されたため,精査加療目的に当科紹介となった.
入院時現症:身長174.8 cm,体重77.1 kg,胸腹部理学所見に異常なし.
血液生化学検査所見:異常所見を認めなかった.
腫瘍マーカー:CEA 8.9 ng/mlと高値を示した.
上部消化管内視鏡所見:食道胃接合部から噴門部にかけて10 mm大の粘膜下腫瘍を認めた(Fig. 1a, b).

a. Endoscopy revealed a 10-mm submucosal tumor from the esophagogastric junction to the cardia. b. Endoscopic US showed that the lesion was an internal uniform hypoechoic mass continuous with the esophageal wall.
上部消化管超音波内視鏡検査:病変は食道壁第4層と連続する内部均一な低エコー腫瘤で,最大横径48 mmの壁肥厚像として描出された(Fig. 1c).FNAや生検も選択肢には挙がったが,腫瘍が胸部下行大動脈の近傍に位置しており穿刺による出血のリスクがあること,そして年齢や腫瘍径が比較的大きいことを考慮すると,たとえ良性腫瘍であっても,この時点で切除を勧めたほうが経過観察に勝ると判断し,組織の採取は省略した.
胸腹部造影CT所見:腹部食道から噴門部にかけて50 mm大の多結節性腫瘍を認めた(Fig. 2a).

a. Contrast-enhanced CT showed a 50-mm polynodular tumor from the abdominal esophagus to the cardia. b. The maximum standard uptake value (SUVmax) of the tumor was 8.17.
PET-CT所見:腫瘍にSUVmax 8.17のFDG異常集積を認めた(Fig. 2b).
臨床経過:胃平滑筋腫を疑ったが,PET-CTで強陽性を示す点が非典型的であった.悪性腫瘍の可能性も考慮し,手術の方針とした.
手術所見:腹腔鏡下噴門側胃切除術を施行した.手術時間は5時間42分,出血量は525 mlであった.
切除標本肉眼所見:胃噴門部に主座を置き,割面が多結節性,白色調充実性,境界明瞭な47×30×20 mm大の粘膜下腫瘍であった(Fig. 3a, b).

a, b. A 47×30×20 mm submucosal tumor was found in the gastric cardia. c. HE staining (HE ×400) showed spindle-shaped cells intricately arranged in a bundle. d. Immunohistochemical staining showed that the tumor was positive for α-smooth muscle action (α-SMA).
病理組織学的検査所見:胃の固有筋層から発生した腫瘍であり,好酸性の細胞質を有する平滑筋細胞が束状に錯綜し増殖していた.核分裂像は1個/50 HPF程度.免疫染色検査はα-SMA陽性,desmin陽性,S100陰性,c-kit陰性であった(Fig. 3c, d).
最終診断:胃平滑筋腫と診断した.
術後経過:経過良好で,術後7日目に退院した.
症例2:27歳,男性
主訴:なし.
既往歴:特記事項なし.
喫煙歴:なし.
飲酒歴:なし.
現病歴:2020年12月,健診の上部消化管造影検査で胃噴門側に腫瘤影を指摘され,当院紹介受診した.精査の結果,胃粘膜下腫瘍と診断され,手術目的に入院となった.
入院時現症:身長167.9 cm,体重71.6 kg,胸腹部理学所見に異常なし.
血液生化学検査所見:異常所見を認めなかった.
腫瘍マーカー:異常所見を認めなかった.
上部消化管内視鏡所見:胃噴門部から胃体上部小彎側にかけて50 mm超の粘膜下腫瘍を認めた.腫瘍の噴門側に潰瘍を形成していた(Fig. 4a, b).

a, b. Endoscopy revealed an ulcer on the cardia side of the tumor. c. Endoscopic US showed a blood flow signal inside the tumor.
上部消化管超音波内視鏡検査:病変は胃壁第4/5層と連続し,内部エコー輝度がやや不均一な腫瘍で,60×41 mm大の壁肥厚像として描出された.ドプラーでは内部に血流信号が認められた.自壊した頂部より生検を行い,平滑筋腫と診断された(Fig. 4c).
胸腹部造影CT所見:胃噴門部を中心に内腔に突出する70 mm大の腫瘍を認めた(Fig. 5a).

a. Contrast-enhanced CT showed a 70-mm tumor in the gastric cardia. b. PET-CT showed abnormal FDG accumulation with SUVmax of 6.13 in the tumor.
PET-CT所見:腫瘍にSUVmax 6.13のFDG異常集積を認めた(Fig. 5b).
臨床経過:生検で平滑筋腫と診断されたが,PET-CTで中等度のFDG集積を認めたこと,また腫瘍が潰瘍を形成していたことから,悪性腫瘍の可能性も考慮し,手術の方針とした.
手術所見:腹腔鏡下噴門側胃切除術を施行した.手術時間3時間40分,出血量は少量であった.
切除標本肉眼所見:胃噴門部に70×70×25 mm大の粘膜下腫瘍を認めた(Fig. 6a, b).

a, b. A 70×70×25 mm submucosal tumor was found in the gastric cardia. c. HE-stained specimen (HE ×400). d. Immunohistochemical staining showed that the tumor was positive for α-smooth muscle action (α-SMA).
病理組織学的検査所見:胃粘膜下に紡錘形核と好酸性の細胞質を有する細胞が高度に増殖し腫瘍を形成していた.核異型・壊死・核分裂像は認めなかった.免疫染色検査はα-SMA陽性,desmin陽性,S100陰性,c-kit陰性であった(Fig. 6c, d).
最終診断:胃平滑筋腫と診断した.
術後経過:術後3日目に食事を開始した.その後,発熱と炎症反応上昇を認めたが,保存的加療で軽快し,術後14日目に退院した.
我々は画像検査の所見から,術前には良悪性の鑑別が困難であった胃粘膜下腫瘍の切除例を2例経験した.両症例とも最終病理診断の結果から胃平滑筋腫という良性の病変であることが分かった.
医学中央雑誌(2007~2020年)およびPubMed(2005~2020年)を用いて「平滑筋腫」,「leiomyoma」,「PET」をキーワードに会議録を除いて検索した結果,FDG集積亢進を伴う消化管原発平滑筋腫の報告は17例認め,食道が12例2)~9),胃が1例10),十二指腸が1例11),小腸が1例12),横行結腸が1例13),肛門管が1例14)であった.胃原発は本症例が2報告目であり,完全腹腔鏡下に切除した症例は我々の報告のほかに認めなかった(Table 1).上記17例に自験例を加えた症例では,上部消化管に限定すると多くが下部食道~噴門部に発生しており,また,腫瘍径が5 cmを超えていると考えられる症例が15例中10例(66.7%)を占めることから,比較的大きな形態をとることが分かった.
| No. | Author | Year | Age | Sex | Location | Tumor diameter | SUVmax |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Miyoshi7) | 2009 | 59 | F | Lt | 38×18×16 mm | 4.7 |
| 2 | Tsukada13) | 2009 | 30 | M | Transverse colon | 27×25 mm | 4.4 |
| 3 | Sakaguchi6) | 2011 | 38 | M | Lt | 70×60×36 mm | 5.8 |
| 4 | Shimada5) | 2012 | 47 | M | Mt | 40 mm | 5.8 |
| 5 | Depypere8) | 2012 | 41 | F | Lt | unknown | unknown |
| 6 | Depypere8) | 2012 | 27 | F | Lt | Around 50 mm | unknown |
| 7 | Maeda12) | 2012 | 49 | M | Small intestine | 30×35×35 mm | 2.83 |
| 8 | Suto14) | 2012 | 36 | F | Anal canal | 35×23 mm | 7.79 |
| 9 | Ichinokawa2) | 2013 | 64 | M | Mt | unknown | 11.3 |
| 10 | Ito3) | 2013 | 38 | M | Mt | 75×47×28 mm | 2.8 |
| 11 | Shimada4) | 2013 | 46 | M | Mt | 40×32×18 mm | 5.83 |
| 12 | Shimada4) | 2013 | 57 | F | Lt | 65×40×20 mm | 5.57 |
| 13 | Dendy9) | 2015 | 33 | M | Mt | 110×27 mm | 1.3 |
| 14 | Dendy9) | 2015 | 33 | M | Lt | 110×27 mm | 5.1 |
| 15 | Dendy9) | 2015 | 28 | M | Lt | 120×80 mm | 10.1 |
| 16 | Hirayama10) | 2016 | 51 | M | Cardia | 40×20 mm | 4.12 |
| 17 | Nonoyama11) | 2018 | 44 | F | Duodenum | 74×98×122 mm | 6.3 |
| 18 | Our case 1 | 49 | M | Cardia | 47×30×20 mm | 8.17 | |
| 19 | Our case 2 | 27 | M | Cardia | 70×70×25 mm | 6.13 |
Mt: middle thoracic esophagus, Lt: lower thoracic esophagus
本症例は,術前検査の情報だけでは確定診断に至らず,gastrointestinal stromal tumor(以下,GISTと略記)や平滑筋肉腫などの悪性腫瘍の可能性も考慮し,切除の方針とした.文献検索を行ったが,腫瘍の良悪性を術前に鑑別する有効な検査法を見つけることはできなかった.Table 1から算出される胃平滑筋腫のSUVmaxの平均値は6.14である.胃GIST(高リスク群)のSUVmaxのcut-off値が3.94と報告されていることから,PET-CTのみではFDG集積亢進を伴う胃平滑筋腫と悪性度の高い胃GISTを鑑別することは困難と考えられる15).一方,平滑筋腫と平滑筋肉腫を鑑別する非侵襲的な方法として近年MRIが注目され,拡散強調画像とapparent diffusion coefficient(以下,ADCと略記)を併用することで両者を術前に区別できる可能性が示唆されている16).この報告の対象臓器は子宮であるが,症例1のADC値は最も低いスポットで1.3~1.4(×10–3 mm2/s)であり,Satoら16)の報告に従うとlow-risk group(平滑筋肉腫0%群)に該当するので,対象臓器が消化管であってもこの鑑別法が活用できる可能性が示唆された.
消化管平滑筋腫にFDG集積亢進を認める原因として,腫瘍の血管増生や血流増加の関与が報告されている6)11)14)17).症例2では上部消化管超音波内視鏡検査で腫瘍内部に血流信号を認めていたため,通常の平滑筋腫と比較し血流増加が起きていた可能性がある.一方,症例1では血管増生を示唆する所見が指摘できなかったことから,FDG集積の原因に関しては後述するような別の理由が関連していたと考えられる.
FDG集積亢進を認める他の要因としてglucose transporter(以下,GLUTと略記)の過剰発現やhexokinase活性亢進の関与の報告も散見される2)4)~7)14).これらの報告を総括すると,本症例においてもGLUT-3もしくはGLUT-4が強い発現を呈した結果,腫瘍にFDG集積亢進を示した可能性がある.ただ,針生検に伴うリスクを考慮すると,事前にGLUT発現の有無を検索することは術前の必須検査になりえるとはいいづらいと考えられる.
本来,良性疾患である胃平滑筋腫においてもPET-CTで偽陽性となる可能性があることから,術前の段階でこれを考慮した鑑別診断が必要である.非侵襲的な方法による消化管系筋原性粘膜下腫瘍の良悪性の鑑別は困難と考えられ,その検査法の確立は今後の課題である.
利益相反:なし