目的:当院でTrousseau症候群を発症した膵癌に関して,臨床経過を後方視的に検討する.方法:2008年から2018年の間に当院で診断された膵癌919例を対象とした.結果:919例中,22例で本症候群を発症した.本症候群を発症した症例のうち,膵癌治療開始時のCA19-9値は269.9 U/ml以上の症例が14例であり,CA19-9高値の症例が多く認められた(P=0.04).膵癌治療開始時のCA19-9値は25,000 U/ml以上の症例が3例あったのに対し,脳梗塞発症時には11例あり,CA19-9高値の症例が多く認められた(P=0.03).予後については22例全てで死亡が確認され,脳梗塞発症後からの生存期間は中央値13.3週(0~45.9週),膵癌診断からの全生存期間は中央値26.2週(4.6~270.4週)であった.多変量解析の結果,脳梗塞発症後に原疾患の治療なし,脳梗塞発症時のD-dimer ≥18.7 μg/mlが脳梗塞発症後からの生存期間における独立した予後不良因子であった(P=0.048,P=0.003).結語:CA19-9高値の膵癌症例は本症候群発症の高危険群であることを念頭に置いて診療にあたる必要があり,その中でも膵癌の病勢コントロールが困難な状況に陥った場合などには特に注意を払う必要がある.また,膵癌治療継続の可否が本症候群発症後の予後において重要であると考えられた.
食道神経内分泌癌(neuroendocrine carcinoma;以下,NECと略記)はまれな疾患で扁平上皮癌(squamous cell carcinoma;以下,SCCと略記)が混在した複合型食道NECは予後不良といわれている.症例は73歳の男性で,嚥下時痛を主訴に近医を受診した.上部消化管内視鏡検査で胸部中部食道に1型腫瘤を認め,生検でSCCと神経内分泌成分の混在を認めた.胸部中部食道癌cT2N3M0,cStage IIIと診断し,術前化学療法DCF療法を開始した.初回治療後,腫瘍は縮小傾向であったが,2コース目施行後に腫瘍は増大したため,化学療法は中止し,胸腔鏡下食道亜全摘術を施行した.病理結果はNEC,CT-pT2N3M0,pStage IVAでSCC成分はほぼ消失していた.補助化学療法としてCDDP+CPT-11療法を開始したがリンパ節再発が出現した.その後AMR療法,CBDCA+VP-16療法の順に行ったが,転移巣は増大し,術後10か月後に永眠された.
症例は67歳の男性で,突然の胸痛を主訴に受診した.20年前にS状結腸癌に対してS状結腸切除術,その術後6年目に膵頭リンパ節の再発に対して亜全胃温存膵頭十二指腸切除術(胃膵吻合)を施行し再発なく経過していた.今回は膵炎の診断で入院したが入院後吐血が出現したため上部消化管内視鏡検査を施行した.胃粘膜が黒色に変化しており胃虚血を疑う所見を認めた.造影CTでは胃,膵臓,脾臓にかけての造影不良を認めそれらの壊死の可能性を考え緊急手術を行った.しかし,術中所見では各臓器に壊死を疑う所見は認めず,腸瘻を造設し手術を終了した.第20病日のCTで胃脾瘻と脾膿瘍を認めたため,脾膿瘍に対しCTガイド下ドレナージを行い保存的に治療を試みた.その後脾膿瘍は縮小したが瘻孔は残存し改善が得られず,第79病日に瘻孔閉鎖術と脾摘術を施行し,第122病日退院となった.胃脾瘻は非常にまれな疾患であり報告する.
平滑筋腫は良性であり,本来はFDG-PETで陰性を呈する.今回,我々は比較的まれなFDG集積亢進を伴う胃平滑筋腫を経験したので報告する.症例1は49歳の男性で,食道胃接合部から胃噴門部を主座とする粘膜下腫瘍にSUVmax 8.17のFDG異常集積を認めた.症例2は27歳の男性で,胃噴門部に潰瘍形成を伴う粘膜下腫瘍を認め,SUVmax 6.13のFDG集積亢進を認めた.どちらも悪性の可能性を考慮して腹腔鏡下噴門側胃切除術を施行し,胃平滑筋腫という診断を得た.平滑筋腫にFDG集積亢進を認める原因として,腫瘍の血流増加やglucose transporterの過剰発現の関与が示唆された.良性の平滑筋腫でもPET-CTで偽陽性を示す可能性があり,これを考慮した鑑別診断が必要である.非侵襲的な方法による筋原性粘膜下腫瘍の良悪性の鑑別は困難と考えられ,その検査法の確立は今後の課題である.
アレルギー反応に起因した急性冠症候群(acute coronary syndrome;以下,ACSと略記)はKounis症候群と呼ばれる.今回,我々は胃癌術後に発生したKounis症候群の1例を経験したので報告する.症例は既往歴のない60歳の男性で,胃癌の診断でロボット支援下幽門側胃切除術を施行した.術中偶発症など特になく手術は終了した.術後約6時間後に,突然HR 30台の徐脈と収縮期血圧60台への低下とST上昇を認めた.ACSを疑い緊急冠動脈造影検査を行ったが,冠動脈の狭窄所見は認めなかった.その一方で,検査前に左膝部に孤立性の膨疹が認められ,検査後に皮疹は両上下肢に広がっていた.薬剤アレルギーとそれに伴うACSであるKounis症候群と診断し,ステロイドを全身投与した.血圧は上昇し,その後のACSの再燃は認められなかった.ACSのリスクが低いにもかかわらずACSが強く疑われる際には,薬剤性アレルギーの可能性を念頭に置き迅速な対応が重要である.
症例は78歳の男性で,近医で肝腫瘤を指摘され紹介受診した.造影CTで肝右葉に動脈相で濃染し,平衡相でwash outする直径10 cmの腫瘤を認め,PIVKA-IIとAFP-L3の上昇を認め肝細胞癌と診断した.肝右葉切除が必要と考えられたが,予定残肝容積率が33%で,経回結腸静脈門脈塞栓術(trans-ileocecal portal vein embolization;以下,TIPEと略記)を施行した.TIPE後28日目の造影CTで腫瘍は5 cm大に縮小し,予定残肝容積率が44%と増大し肝右葉切除を施行,術後合併症なく退院した.切除標本は肉眼的には出血壊死の所見で,組織学的には出血を伴う壊死組織と変性組織で占められ腫瘍細胞を認めなかった.現在術後12か月経過し,再発所見なく経過している.TIPEにより完全壊死を来した肝細胞癌と考えられる1例を経験したため,報告する.
孤立性の上腸間膜動脈(superior mesenteric artery;以下,SMAと略記)解離はまれな疾患で治療法も確立していない.手術とステント留置を行うも虚血性腸炎が遷延し再手術を要した症例を経験したので報告する.症例は38歳の男性で,造影CTで孤立性SMA解離と腸管造影不良を認め手術を行った.SMAにステントを留置し開腹すると右側結腸は壊死していたが小腸は壊死を免れていた.結腸右半切除術を行い,回腸人工肛門と横行結腸粘液瘻を造設したが高熱と腹痛が遷延した.造影CTではSMAと腸管に血流を認めたが広範な小腸浮腫を認めた.虚血性腸炎と考え保存的治療を継続したが,全身状態が悪化するため術後56日目に小腸を追加切除した.その後は状態改善し初回手術後113日目に退院した.SMA血行再建を行い,腸壊死を免れた場合も虚血性腸炎が遷延する場合は手術を検討すべきと考えられた.
症例は57歳の男性で,27歳時に潰瘍性大腸炎と診断された.2016年8月の下部消化管内視鏡検査で直腸Rbに隆起性病変を認め病理検査でcolitis associated rectal cancerと診断され当科に紹介となった.同年10月,大腸全摘J型回腸囊肛門吻合術,回腸人工肛門造設術を施行した.病理結果はRbP,pT1b,pN0,pM0,pStage I(大腸癌取扱い規約第9版)であった.2020年5月の下部消化管内視鏡検査で前回吻合部の5~6時方向に腫瘤性病変を認め,生検でadenocarcinomaと診断された.2020年6月にJ型回腸囊切除術を施行した.最終病理診断はrT1b,N0,M0,Stage I(大腸癌取扱い規約第9版)で前回標本と同様の組織像を示し再発として矛盾しない所見であった.大腸全摘回腸囊肛門吻合術後の吻合部再発の報告は希少であり報告する.