日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
術前に直腸癌由来Pagetoid spreadと診断した肛門腺癌由来Pagetoid spreadの1例
近森 健太郎岡田 倫明河田 健二山田 洋介岡村 亮輔板谷 喜朗肥田 侯矢小濵 和貴
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2022 年 55 巻 9 号 p. 591-599

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Abstract

肛門周囲の上皮内に隣接臓器癌が進展しPaget病様の組織像を呈する現象をPagetoid spreadと呼ぶ.症例は84歳の女性で,主訴は肛門周囲の発赤であった.内視鏡で直腸癌を認め,肛門周囲皮膚の生検と免疫染色検査の結果から直腸癌由来のPagetoid spreadが考えられ,ロボット支援下直腸切断術と肛門周囲皮膚切除術を施行した.病理学的検討では肛門皮膚病変は直腸癌と連続しておらず,直腸癌とは別に肛門腺癌を認め,また肛門皮膚病変の免疫染色検査のプロファイルが直腸癌と一致せず,肛門腺癌と一致したため,肛門腺癌由来のPagetoid spreadと最終診断した.肛門腺癌はまれで,粘膜に病変を認めにくく,初期の発見は困難である.肛門周囲にPaget細胞を認めた場合,肛門腺癌によるPagetoid spreadの可能性を念頭に置き,免疫染色検査を含めた詳細な病理学的検討を行うことが重要である.

Translated Abstract

An 84-year-old woman presented with perianal skin redness. Histopathological examination of skin biopsy revealed Paget’s cells, and colonoscopy indicated rectal cancer. Thus, pagetoid spread of rectal cancer was diagnosed. Robot-assisted abdominoperineal resection of the perineal skin lesion was performed. A further histopathological examination revealed that Paget’s cells were not contiguous with rectal cancer cells, and anal gland adenocarcinoma was thus identified. The immunohistochemical staining pattern of the pagetoid spread (CK20+/CK7+) was consistent with that of the anal gland adenocarcinoma (CK20+/CK7+), rather than with the rectal cancer (CK20+/CK7–). Therefore, we ultimately diagnosed pagetoid spread of anal gland adenocarcinoma. Anal gland adenocarcinoma is rare and difficult to detect in the early stage because the lesion is not exposed on the mucosal surface. Since anal gland adenocarcinoma was latent in the present case, a detailed immunohistopathological examination was necessary to diagnose the origin of the perineal Pagetoid spread accurately.

はじめに

乳房外Paget病はPaget細胞と呼ばれる異型細胞が表皮内で増殖・進展することを特徴としており,原発巣によって原発性乳房外Paget病と続発性(二次性)乳房外Paget病に大別される.原発性乳房外Paget病は肛門周囲皮膚および性器周囲などのアポクリン腺の豊富な領域に発生し,肛門管に及ぶことがある.続発性乳房外Paget病は,皮膚に隣接する臓器の癌が上皮内を移動して表皮へ到達し表皮内癌の所見を呈することを特徴としており,その現象をPagetoid spreadとも呼ぶ.原発性乳房外Paget病とPagetoid spreadの臨床病理像は類似しているが,治療方針は全く異なるため鑑別が重要である1)

今回,我々はPagetoid spreadを伴う肛門腺癌に,直腸癌を合併した1例を経験したので報告する.

症例

患者:84歳,女性

主訴:肛門周囲発赤

既往歴:右母指Bowen病,乳癌,2型糖尿病

現病歴:3年前頃より肛門周囲の発赤を自覚していた.肛門皮膚病変(Fig. 1a)の生検の結果,表皮全層で異型細胞(Paget細胞)の増殖が認められた(Fig. 1b).免疫染色検査でCDX2陽性,CK20陽性,GATA3陰性という所見を認めたため,原発性乳房外Paget病ではなく,腸管原発癌によるPagetoid spreadが疑われた.下部消化管内視鏡検査で直腸癌を認めたため,直腸癌によるPagetoid spreadと診断され,手術目的に外科紹介となった.

Fig. 1 

(a) An erythematous skin lesion had spread around the anus. (b) Histological assessment of a skin biopsy showed the presence of Paget’s cells.

血液検査所見:腫瘍マーカーはCEA 4.1 ng/ml,CA19-9 16.0 U/mlといずれも正常範囲内であった.

下部消化管内視鏡検査所見:直腸後壁,Hermann線直上に30 mm大のlaterally spreading tumor granular type(LST-G)を認めた(Fig. 2).生検でtubular adenocarcinoma(tub1),深達度SMの直腸癌と診断された.腫瘍と歯状線との間には正常粘膜が介在し,肉眼的に明らかな肛門皮膚病変との連続性は確認されなかった.

Fig. 2 

Rectal cancer occurred as a laterally spreading type tumor located above the Hermann line.

CT,MRI所見:直腸間膜リンパ節の腫大や遠隔転移を認めなかった.

以上より,肉眼的に連続性を認めないもののPagetoid spreadを伴う直腸癌と診断し,ロボット支援下腹会陰式直腸切断術を施行した.

手術所見:

①会陰操作:肛門皮膚病変から5 mmマージンを確保し皮膚切開を行った(Fig. 3a).膣内進展を疑われたため膣後壁を含めて切除を行った.坐骨直腸窩脂肪を肛門挙筋直下まで切離しておいた.

Fig. 3 

Perianal skin incision and repair. (a) Skin incision (solid line) with a 5-mm margin from the erythematous lesion (dotted line). (b) Perineal view after removal of the perianal skin and anorectum. (c) Reconstruction with V-Y advancement flaps.

②腹腔内操作:ロボット(da Vinci Xi)支援下に,左結腸動脈を温存して上直腸動脈を切離し,直腸間膜全切除を行った.肛門挙筋を切離して,先行した会陰からの切離層と全周性に交通させ,標本を摘出した(Fig. 3b).

③会陰創の閉鎖:形成外科医により皮弁形成術で会陰創を閉鎖した(Fig. 3c).

切除標本および病理組織学的所見:

直腸病変:粘膜下層に浸潤する(粘膜筋板より3 mm),高~中分化腺癌を認めた(Fig. 4, Fig. 5a).脈管侵襲は認めなかった.免疫染色検査では,GCDFP15陰性,CDX2陽性(Fig. 5b),CK7陰性(Fig. 5c),CK20陽性(Fig. 5d)であった.大腸癌取扱い規約第9版では,tubular adenocarcinoma,well to moderately differentiated.Rb,Type 0-IIa+Is,40×20 mm,tub1>tub2,pT1b(SM),Ly0,V0,BD1,Pn0,pPM0,pDM0,pRM0,pN0と診断した.

Fig. 4 

Distribution of pagetoid spread (yellow), anal gland adenocarcinoma (green) and rectal adenocarcinoma (red). A connection between pagetoid spread and rectal adenocarcinoma was not identified.

Fig. 5 

Histological assessment of rectal adenocarcinoma (a) showed positive staining for CDX2 (b) and CK20 (d), and negative staining for CK7 (c).

肛門皮膚病変所見:境界不明瞭な白色調の隆起性病変が存在し(Fig. 4),表皮内にPaget細胞の増殖を認めた(Fig. 6a, Fig. 7a, b).脈管侵襲は認めなかった.全割面を検索した結果,30番の切片上に粘膜下層の肛門管付属腺を置換するような腺癌の像を認め,肛門腺の上皮内癌を認めた(Fig. 7c).Paget細胞と肛門腺癌の両者とも,免疫染色検査でGCDFP15陰性,CDX2陽性(Fig. 6b),CK7陽性(Fig. 6c, Fig. 7d),CK20陽性(Fig. 6d)を認めた.大腸癌取扱い規約第9版では,adenocarcinoma with pagetoid spread.PE,Type 0-IIb,110×40 mm,tub1,pTis(M),Ly0,V0,Pn0,pPM0,pDM0,pRM0,pN0と診断した.

Fig. 6 

Histological assessment of pagetoid spread (a) showed Paget’s cells (arrows) with positive staining for CDX2 (b), CK7 (c) and CK20 (d).

Fig. 7 

Histological sections of no. 30 specimen from Fig. 4 (a). Paget’s cells (b) were present near the anal gland adenocarcinoma (c). Anal gland adenocarcinoma (c) was at the bottom of the anal crypt (arrow in a) and stained positively for CK7 (d).

直腸癌とPaget細胞に連続性を認めず,また前者でCK7陰性,後者でCK7陽性と免疫染色検査のプロファイルが異なっていることから,両者は原発巣が異なる腫瘍であると考えられた.そして,肛門腺癌とPaget細胞が近接し,免疫染色検査のプロファイルが一致していたため(Table 1),肛門腺癌由来のPagetoid spreadであると結論付けられた.

Table 1  Comparison of results from immunohistochemical staining
GCDFP15 CK20 CK7 CDX2
Rectal adenocarcinoma + +
Paget’s cells + + +
Anal gland adenocarcinoma + + +

術後補助化学療法は行わず,術後6か月時点で無再発生存中である.

考察

乳房外Paget病はアポクリン腺が存在する領域に好発する原発性乳房外Paget病と,皮膚に隣接する癌が上皮内を移動して表皮へ到達し,表皮内癌の所見を呈する続発性乳房外Paget病(Pagetoid spread)に大別される1).双方とも臨床的には肛門周囲に紅斑や湿疹を肉眼的に認め,臨床病理像では腺癌が表皮内に進展し大型淡明細胞であるPaget細胞を認めるという点で似通っているが,原発巣が異なる病態であり治療方針も異なっている.皮膚原発乳房外Paget病の治療では局所切除が基本であり肛門温存が可能であるが,一方でPagetoid spreadを伴う直腸肛門管癌に対しては直腸切断術が治療の基本であり,肛門温存が難しくなる2).そのため術前診断において,両者の鑑別が重要である.肛門周囲にPaget病変を認めた症例では直腸肛門管癌を25~69%に認めたという報告があり3)~5),肛門周囲にPagetoid spreadを認めた場合には直腸肛門鏡や下部内視鏡などの検査を施行し,隣接する内臓癌を精査すべきである6)

原発性乳房外Paget病と内臓癌のPagetoid spreadの鑑別には,GCDFP15,CK20,CK7のような免疫染色検査が有用である.GCDFP15はアポクリン腺やエクリン腺由来の腫瘍に陽性を示すマーカーであり,消化管腺癌に対しては陰性を示す7).また,CK20は消化管腺癌,尿路上皮癌で陽性を示すことが知られている8).原発性乳房外Paget病ではGCDFP15+/CK20–,直腸肛門管癌のPagetoid spreadではGCDFP15–/CK20+となることが知られており,鑑別に役立つとされている3)9).近年ではCDX2のように大腸癌に特徴的なマーカーが報告されている10).また,乳癌や膀胱癌の診断に用いられるGATA3も原発性乳房外Paget病で陽性となることが知られており,直腸肛門管癌のPagetoid spreadとの鑑別に有用である11)

本症例における切除標本に対する免疫染色検査では,直腸病変がGCDFP15–/CK20+/CK7–/CDX2+であったのに対し,肛門皮膚病変がGCDFP15–/CK20+/CK7+/CDX2+という結果であり,直腸病変がCK7–,肛門皮膚病変がCK7+と免疫染色検査のプロファイルが異なっていることから,それぞれが原発巣の異なる病変であることが示唆された.Ramalingamら12)は肛門周囲にPaget病変を伴わない直腸癌の87%でCK20+/CK7–であったことを報告しており,直腸癌がPaget病変を伴うか否かによって異なる発現パターンを示しうることを指摘している.一方で,Pagetoid spreadを伴う直腸肛門管癌におけるCK20とCK7の組み合わせについては,CK20+/CK7+が59%,CK20+/CK7–が39%,CK20–/CK7+が2%,CK20–/CK7–が0%とする報告がなされており13),一定の発現パターンを示していないのが事実である.このことから,隣接する直腸肛門管癌を認めるPaget病変に対しては,Paget病変だけでなく隣接癌に対する免疫染色検査を行い,CK20やCK7の発現パターンを比較することが原発巣の鑑別診断に有効であると考える.

Pagetoid spreadは,原発巣と連続性を認めるものが一般的である.連続性をもたないPagetoid spreadを伴う直腸肛門管癌はまれであり,肛門腺由来印環細胞癌が初期の原発巣切除や化学療法の影響で非連続性に表皮内浸潤を生じた症例14)や,直腸癌がリンパ管侵襲を示すことで表皮内への進展を生じたとする症例15)が報告されており,それぞれ粘膜面での連続性を有さないという点で共通している.今回の症例では,術前内視鏡で直腸病変と肛門皮膚病変の連続性を認めないものの,前述の非連続性Pagetoid spreadのような進展様式である可能性を考慮し,術前に直腸癌由来のPagetoid spreadと診断していた.切除標本でも肉眼的かつ病理学的に直腸病変と肛門皮膚病変との連続性を認めなかったが,直腸癌の脈管侵襲は認めておらず,また全割面に対する病理学的検索を行った結果,直腸癌とは別に,肛門皮膚病変に近接する部位に肛門腺癌の存在が明らかになった.前述の非連続性Pagetoid spread症例では原発巣の局在が肛門管主体であるのに対し,本症例の直腸癌は下部直腸に位置しており,肛門皮膚病変との距離が原発巣としては離れすぎているように見えた.さらに免疫染色検査を行い,肛門皮膚病変のPaget細胞と肛門腺癌のプロファイルが一致していたため,肛門皮膚病変は肛門腺癌から生じたPagetoid spreadであると結論付けられた.

肛門腺由来の腺癌である肛門腺癌は,病変の主座が肛門管壁内にあるため,初期には癌組織を粘膜に認めず,早期発見が難しい16).本症例では全割面での検索を行い肛門腺癌を発見しえたが,切り出し面がずれていれば発見されていなかった可能性がある.過去の非連続性のPagetoid spreadを伴う直腸肛門管癌の症例15)において,本症例のように微小な肛門腺癌が潜在していた可能性は否定できない.Pagetoid spreadを伴う肛門腺癌は過去にも複数症例が報告されており,佐伯ら13)はPagetoid spreadを伴う直腸肛門管癌81例のうち31例(38%)が肛門腺癌原発であったと報告している.そのため,Pagetoid spreadの原発巣検索においては肛門腺癌の存在を念頭に置き,本症例のようにPagetoid spreadに隣接する明らかな直腸肛門管癌を認めた場合においても,原発巣が肛門腺癌である可能性を考慮しておく必要がある.

肛門腺癌は早期発見が難しいこともあり,進行した状態で診断がつくことが多く17),本症例のように肛門周囲Pagetoid spreadの切除標本において肛門腺の上皮内癌を認める報告例は比較的まれである.医学中央雑誌(1991年~2021年)で「Pagetoid spread」をキーワードに検索したところ,Pagetoid spreadを伴う肛門腺癌は16例あり,そのうち4例に上皮内癌の記載を認めた.また,本症例のように別病変として直腸癌を合併していた報告は認めなかった.森谷ら17)は肛門腺の上皮内癌が連続性に肛門小窩を介して肛門上皮に進展,浸潤した症例を報告しており,肛門腺上皮内癌が肛門周囲Pagetoid spreadの発生機序における初期像である可能性を示唆している.本症例においても肛門腺上皮内癌が同様の進展様式を呈したと考えられる.

本症例を踏まえ,肛門周囲Paget病変の診断におけるフローチャート(Fig. 8)を作成した.まず肛門皮膚病変に対する免疫組織化学的評価を行い,皮膚原発Paget病と直腸肛門管癌のPagetoid spreadを鑑別することから始まる.また,並行して下部消化管内視鏡検査を行い,粘膜病変があればこれを生検する.この際,直腸型腺癌だけでなく管外型腺癌(肛門腺癌や痔瘻癌)が併存していることを想定し,粘膜病変に対する免疫染色検査を行い,肛門皮膚病変と比較する.そのうえで直腸型腺癌あるいは管外型腺癌を鑑別することが重要と思われる.粘膜病変を認めない場合は,管外型腺癌の可能性を念頭に置いた診療が重要である.治療方針としては,原発性Paget病であれば肛門皮膚病変の局所切除が適応となる.直腸肛門管癌のPagetoid spreadでは,根治性と手技的な問題から腹会陰式直腸切断術が選択されることが多いが,永久人工肛門となり術後QOLを著しく低下させる.近年,Pagetoid spreadの原発巣が粘膜内にとどまる場合,内外肛門括約筋を温存して病変粘膜と肛門皮膚病変を切除し肛門再建を行う術式が報告されており18)19),手技の難しさ,根治性や機能についてはさらなる議論が必要であるものの,排便機能を温存できる術式として期待される.本術式は,粘膜病変を認めず,Pagetoid spreadを強く疑う場合,つまり潜在的な肛門腺癌によるPagetoid spreadが疑われる場合は,診断的治療と機能温存を両立できるため良い術式と考える.粘膜病変を有するPagetoid spreadで,免疫染色検査の結果から粘膜病変由来のPagetoid spreadと診断され,原発巣が進行癌であれば腹会陰式直腸切断術が選択されるべきである.一方で,本症例のような直腸癌と連続性のないPagetoid spreadでは,潜在的な肛門腺癌を考慮して,前述の肛門温存手術と直腸癌の病期に応じた手術(内視鏡的粘膜下層剥離術,経肛門的腫瘍切除,低位前方切除など)を組み合わせた術式も選択肢となりうるが,手技の煩雑さと根治性の問題から,人工肛門を受容できない症例など限定的な選択になると考える.本症例では,高齢でもあり年齢的な肛門括約筋機能を考慮すると,術前に診断しえたとしても腹会陰式直腸切断術を選択したと思われる.

Fig. 8 

Diagnostic flowchart for perianal Paget’s disease.

利益相反:なし

文献
 

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