日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
Persistent descending mesocolonによる下行結腸軸捻症に対し腹腔鏡下結腸固定術を施行した1例
伊藤 量吾服部 正興岩清水 寿徳小澤 千尋篠原 健太郎平田 明裕青野 景也吉原 基
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2022 年 55 巻 9 号 p. 575-582

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Abstract

症例は15歳の女性で,腹痛と腹部膨満のため近医を受診し,腸閉塞の診断で当院に紹介となった.腹部造影CTで右側結腸の拡張とwhirl signを認め,結腸軸捻症として内視鏡下に整復した.再構築した3DCTで,S状結腸が腹部正中を走行し,下行結腸が腸管軸方向に約270°捻転していたため,persistent descending mesocolon(以下,PDMと略記)による下行結腸軸捻症と診断した.軸捻を繰り返したため,腸管減圧と捻転予防目的に経肛門イレウス管を挿入し,待機的腹腔鏡下結腸固定術を行った.大動脈左側を走行するS状結腸と小腸間膜の癒着を切離し,結腸を脾彎曲部からS-D junctionを形成するように左側腹壁に固定した.術後6か月現在,再発なく外来経過観察中である.今回,我々はPDMによる下行結腸軸捻症に対し,腹腔鏡下結腸固定術を行った1例を経験したので報告する.

Translated Abstract

The patient was a 15-year-old female who was diagnosed with intestinal obstruction after visiting a family doctor due to abdominal pain and distension. The patient was subsequently referred to our hospital. Our diagnosis was colon volvulus because of dilation of the right colon and the presence of a whirl sign on abdominal CT. Endoscopic detorsion of the colon was performed. In reconstructed 3D CT, the sigmoid colon ran along the midline of the abdomen and the descending colon was twisted 270º in a clockwise direction toward the organo-axis. The diagnosis was descending colon volvulus due to persistent descending mesocolon. Due to repeat torsions, a transanal ileus tube was inserted to decompress the intestines and prevent torsion, and elective laparoscopic fixation of the descending colon was performed. Adhesions were dissected between the sigmoid colon that ran along the midline and the mesentery of the small intestine. The left colon was sutured to the left abdominal wall to form the splenic flexure and S-D junction. There was no recurrence at 6 months after surgery. We report this case of laparoscopic colon fixation for descending colon volvulus due to persistent descending mesocolon with a review of the literature.

はじめに

Persistent descending mesocolon(以下,PDMと略記)は下行結腸からS状結腸が内側へ変位し,小腸間膜や右側骨盤壁へ癒着する固定異常である1).今回,我々はPDMによる下行結腸軸捻症に対して,腹腔鏡下に下行結腸を左側壁側腹膜へ固定し,腸管切除を回避した1例を経験したので報告する.

症例

患者:15歳,女性

主訴:右季肋部痛

現病歴:前日からの腹痛,腹部膨満のため近医を受診し,腸閉塞と診断され当院救急外来に紹介となった.

既往歴:大動脈縮窄症,大動脈弁縮窄症,低位鎖肛

身体所見:腹部膨満・軟であり,圧痛は認めなかった.

血液検査所見:正常範囲内であった.

腹部単純X線検査所見:上行結腸から横行結腸が著明に拡張していた(Fig. 1).

Fig. 1 

Plain abdominal radiography: The ascending and transverse colon was dilated.

腹部造影CT所見:冠状断で,左上腹部にwhirl signを認め,口側の盲腸から横行結腸にかけて著明に拡張していたため,横行結腸軸捻症による腸閉塞を疑った(Fig. 2a).また,捻転部から肛門側の結腸は,腹部大動脈の左側近傍を走行し,直腸へと続いていた(Fig. 2b).

Fig. 2 

Coronal section of abdominal contrast-enhanced CT. a) A whirl sign in the upper left abdomen (circle). The oral colon was dilated. b) The left colon ran beside the left side of the aorta (white arrowheads). c) The colon with spiral narrowing (white arrows).

下部消化管内視鏡検査所見:横行結腸軸捻症を疑い,緊急下部消化管内視鏡検査を行った.肛門縁から約20 cmで粘膜が浮腫状となり狭窄していた.透視下に内視鏡を左回旋することで捻転を解除し,盲腸まで観察を行った.口側腸管に粘膜壊死は認めなかった.捻転解除後のガストログラフィン造影では拡張した横行結腸を認め,左側結腸は腹部正中を走行し,直腸へと続いていた(Fig. 3a).

Fig. 3 

Abdominal radiography after endoscopic detorsion. a) Gastrografin enema after endoscopic detorsion showed the dilated transverse/descending colon and the sigmoid colon running slightly left of the midline. b) After endoscopic detorsion, a transanal ileus tube was inserted into the cecum to decompress the intestines and prevent torsion (arrowheads).

捻転解除後,一旦は退院したが,2か月間に同様なエピソードを4回繰り返した.3回目の捻転時のCTでは左上腹部に螺旋状に走行し狭窄していく結腸を認めた(Fig. 2c).また,再構築した3D-CT画像では,下腸間膜動脈の分岐異常は認めなかった.腸管と支配動脈の関係をみると,動脈左側を走行している結腸はS状結腸であり,捻転している腸管は主に左結腸動脈に支配されている下行結腸であった(Fig. 4a, b).下行結腸が螺旋状に捻転し腸閉塞を来していた(Fig. 4c).3D-CTと3回目の捻転時のCTの結果から,尾側から見て約270°時計回りに下行結腸が捻転していると判断した(Fig. 4d).

Fig. 4 

Reconstructed 3D CT images. a) The descending colon was dilated (blue). The sigmoid colon ran on the medial side (yellow). b) Schema of the branch of the inferior mesenteric artery and position of the colon. The descending colon was obstructed. c) Enlarged view of the obstruction site showing the organo-axial volvulus of the descending colon. d) The descending colon was twisted 270º in a clockwise direction.

4回目の捻転時に内視鏡的整復後,保存的治療は困難と判断し,PDMが原因の下行結腸軸捻症に対して腹腔鏡下結腸固定術を企図した.右側結腸の腸管拡張が著明なため,腸管減圧と術前待機期間の捻転予防目的に経肛門イレウス管を盲腸まで挿入した(Fig. 3b).5日間の腸管減圧後,待機的手術を施行した.

手術所見:結腸の名称については支配血管を基に記載した.

臍から12 mmポートを挿入し気腹したあと,右下腹部に12 mmポートと右側腹部に5 mmポートを挿入し,左側腹部に5 mmポートを挿入し,4ポートで手術を開始した.腹腔内を観察すると,上行結腸は右側腹壁に固定され,肝彎曲部を形成していた.結腸脾彎曲部と下行結腸は固定されていなかった.S状結腸は空腸起始部左側から腹膜翻転部へとまっすぐに走行し,左側腹壁とは固定されていなかった(Fig. 5a).また,S状結腸は腹側で小腸間膜と膜様構造物で癒着していた(Fig. 5b).その膜様構造物を切離すると左側結腸間膜の展開が可能となり,左側結腸を左側腹壁まで容易に展開することができた(Fig. 5c).結腸脾彎曲部からS-D junctionを形成するように結腸を脾下極から尾側へと左側腹壁に10針3-0吸収糸結節縫合にて固定し,手術を終了した(Fig. 5d).手術時間は143分,出血量は5 mlだった.

Fig. 5 

a) The sigmoid colon ran along the midline and was not fixed to the left abdominal wall. b) The sigmoid colon adhered to the small intestinal mesentery with a membrane. c) The adhesion between the sigmoid colon and mesentery of the small intestine was peeled off, and the left mesentery was expanded. d) The left colon was sutured to the left abdominal wall to form the splenic flexure and S-D junction.

術後経過:術後4日目に注腸造影を行い,右側結腸の拡張が消失し,下行結腸が左側腹壁に固定されていることを確認した(Fig. 6).経過順調であり術後6日目に退院となった.術後6か月現在,再発なく外来経過観察中である.

Fig. 6 

Gastrografin enema after the operation showed that the left side of the colon was fixed to the left abdominal wall.

考察

結腸軸捻症の捻転部位は89.5%がS状結腸であり,盲腸が5.9%,下行結腸は1.9%と報告されている2).S状結腸軸捻症の原因としては高齢,常習便秘,向精神病薬の内服などの後天的要因と,過長や腸回転異常などの先天的要因が挙げられる3).一方で,上行結腸や下行結腸は通常後腹膜に固定されており,何らかの固定異常を伴わないと捻転は起こしえないと報告されている4).上行結腸と下行結腸の固定は,胎生5か月終わりに結腸間膜が壁側腹膜へ癒合することによって永久的に固定される.発生の段階で腸間膜が後腹膜へ固定されなかったことで結腸の固定異常が起こる1)5)6).下行結腸の固定異常であるPDMは比較的まれであり頻度は1.3~2.4%と報告されている7)8)

PDMの症例では正常例と異なり,解剖学的位置で下行結腸とS状結腸の範囲を定義することが困難と考えられる.自験例の下腸間膜動脈の分岐は一般的であり,下腸間膜動脈から左結腸動脈と第1S状結腸動脈の共通幹が分岐した後,第2S状結腸動脈を分岐し上直腸動脈へと移行していた.この支配血管から左側結腸の名称を定義した.腹部正中を走行する結腸は第1,2S状結腸動脈から栄養されるS状結腸であり,捻転している結腸は左結腸動脈から栄養される下行結腸であった.岡田ら7)のPDMを合併した大腸癌患者の腹腔鏡所見についての報告によると,PDMではS状結腸が内側の小腸間膜や結腸間膜と癒着していると報告している.また,岡田ら7)はPDMをS状結腸が長くS状結腸と下行結腸がN字型に癒着しているlong-S型とS状結腸が比較的短く,下行結腸までほぼ直線化しているshort-S型に分類していた.自験例は,S状結腸と小腸間膜の癒着を認めており,short-S型であった.

自験例では,short-S型のPDMのためS状結腸が腹部正中に固定され,下行結腸と結腸彎曲部が固定されていなかった.そのため結腸の自由度が高く,下行結腸軸捻症を来したと考えられた.

医学中央雑誌で2002年から2021年までの20年間で「下行結腸」,「固定異常」,「persistent descending mesocolon」,「軸捻症」をキーワードに会議録を除いて検索したところ,左半結腸または下行結腸軸捻症の本邦報告例は3例であった.自験例を含めた4例についてTable 14)9)10)に記す.3例が初期診断で結腸軸捻症と診断していたが,捻転部位については診断できていなかった.下行結腸固定異常はまれであり,解剖学的位置異常を来すため診断することは困難であると考えられた.捻転様式について過去の3例の報告では横行結腸から下行結腸が腸間膜軸(短軸)方向に捻転し,closed loopを形成していたが,自験例では下行結腸が腸管軸(長軸)方向に捻転しており,closed loopは認めなかった.術後に改めてCT画像を評価したところ,固定されていない下行結腸が尾側から見て約270°時計回りに腸管軸方向に捻転し,腸閉塞を来したと推察された.

Table 1  Cases of left-side colonic volvulus
No Author Year Age/Sex Symptom Primary diagnosis Initial treatment Operation Volvulus colon Torsion direction Follow up
1 Nishiyama4) 2003 65/M Abdominal pain and distention Intestinal obstruction Ileus tube Open fixation of descending colon Transverse and descending mesentero-axial, counter-clockwise 180 degree 60 months
2 Shimizu9) 2017 26/F Abdominal pain and distention Sigmoid colon volvulus Endoscopic detorsion Laparoscopic left hemi-colectomy Transverse and descending mesentero-axial 18 months
3 Takeyama10) 2019 43/F Abdominal pain Colon volvulus Emergency laparotomy* Open left hemi-colectomy Transverse and descending mesentero-axial, clockwise 180 degree 3 months
4 Our case 15/F Right hypochondrial pain Transverse colon volvulus Endoscopic detorsion+transanal ileus tube Laparoscopic fixation of descending colon Descending organo-axial, clockwise 270 degree 6 months

*: Endoscopic detorsion was planned for case 3, but was not performed due to mucosal necrosis. Emergency laparotomy was performed.

武山ら10)の報告では下部消化管内視鏡検査で腸管壊死を認めたため,緊急手術を施行していたが,自験例を含めた3例は,内視鏡的整復やイレウス管などの初期治療を行った後,待機的に手術を施行していた.自験例は内視鏡的整復後も右側結腸の拡張が取れず,待機的腹腔鏡手術を企図するために経肛門イレウス管による術前処置を行った.さらに,経肛門イレウス管を盲腸まで挿入することによって,腸管内で芯の役割を果たし,術前待機期間の捻転を予防することが可能であった.内視鏡下に捻転を解除できた左側結腸の軸捻症においては,術前処置としての経肛門イレウス管の挿入は有用であると考えられた.

治療方針として,第一選択は下部消化管内視鏡検査による非観血的整復術と考えられる.検索した4例中3例が内視鏡的整復を施行され,2例が整復成功していた.S状結腸軸捻症では75~95%と整復成功率は高値であり,左半結腸においても67%と良好な結果であった11)~13).一方でS状結腸軸捻症の場合,再発率は20~84%と報告されており,待機的にS状結腸を切除することが望ましいとされている14)~16).しかしながら,左半結腸の軸捻症に対する術式については議論の余地がある.検索した4例中2例が結腸切除を施行され,2例は結腸固定術が施行されていた.下行結腸軸捻症は下行結腸固定異常が原因であり,S状結腸軸捻症とは異なり固定する構造物があるため,壊死所見がなければ結腸固定術が望ましいと考えられた.自験例では,若年であり身体が大きくなる可能性と,固定が外れるリスクを踏まえ,連続縫合ではなく,結節縫合を選択した.使用する糸については,吸収糸を利用したが,非吸収糸を用いる方がより再発リスクを軽減できると思われた.結腸固定術では,PDMに伴う下行結腸と小腸間膜との広範な癒着の剥離と結腸脾彎曲部からS-D junctionを形成するような左側腹壁への結腸の固定が必要である.また,上行結腸の固定異常の評価および他の腸回転異常の評価も必要であり,術野が広範囲に及ぶため,腹腔鏡下手術は有用であると考えられた.

今回,我々はPDMによる下行結腸軸捻症に対し,腹腔鏡下結腸固定術を行った.内視鏡下捻転整復と経肛門イレウス管による腸管減圧と捻転予防を行ったことにより,待機的手術が可能となり,腸切除を回避することができた.また,整容面や術後疼痛の軽減だけでなく,腹腔内の観察が可能なことや,広範な癒着剥離と左側腹壁への腸管固定が必要なことを考慮すると腹腔鏡下手術は有用であると考えられる.

利益相反:なし

文献
 

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