2023 年 56 巻 1 号 p. 10-19
症例は腎細胞癌術後11年目の61歳の男性で,便潜血陽性にてCTを施行し,膵体部と膵尾部および結腸肝彎曲部に腫瘍を認めた.下部内視鏡検査では大腸腫瘍は粘膜下腫瘍様の隆起性多血性病変であり生検では確定診断が得られなかったが臨床経過から腎細胞癌の膵,大腸転移再発と診断し開腹下で膵体尾部兼脾臓合併切除術および横行結腸部分切除術を施行した.術後は膵液瘻を認めその後に限局性腹膜炎,大網壊死,腹腔内膿瘍を発症した.CTガイド下ドレナージを含む保存的加療にて軽快し術後88日目に退院となった.腎細胞癌の大腸転移は極めてまれであり複数臓器の転移を認める場合が多い.治療戦略では外科的切除に加え免疫チェックポイント阻害剤による薬物療法が有効な症例もあり今後は見極めていく必要がある.外科的切除では大腸腫瘍が横行結腸に存在する場合,膵離断面と大腸吻合部が近接し,膵液瘻と感染の関連に寄与する可能性があり注意が必要である.