日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
傍胸骨孔横隔膜ヘルニアに対する腹腔鏡下手術の1例
針金 幸平根本 洋山野 格寿小森 啓正宮地 孟去川 秀樹志村 国彦矢澤 直樹宮前 拓
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2023 年 56 巻 4 号 p. 229-238

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Abstract

傍胸骨孔横隔膜ヘルニア(parasternal diaphragmatic hernia;以下,PDHと略記)はMorgagni-Larreyヘルニアなどの名で呼ばれた,比較的まれな疾患である.今回,我々の腹腔鏡下の1手術例の報告に加え邦文,英文報告例の655例をレビューした.症例は83歳の女性で,嘔吐,脱水により入院し,PDH,胃十二指腸嵌頓と診断された.全身状態の改善後,腹腔鏡下でtension free法で修復し,術後の経過は良好であった.PDHは女性や肥満症例に多く発症する.過去には胸腔内の腫瘍と診断されることもあり,開胸手術が多く行われたが,CT診断で正診率は上昇し,最近は腹腔鏡手術が主流となっている.手術はtension free法が増加している.手術成績は良好で術後死亡率や術後再発は1%未満であった.

Translated Abstract

Parasternal diaphragmatic hernia (PDH) (also known as Morgagni-Larrey hernia) is a relatively rare disease. Here, we report a case of PDH and review 655 published cases of PDH in adults. An 83-year-old woman with kyphosis was admitted to our hospital with vomiting and severe dehydration. She was diagnosed with PDH with incarceration of the distal stomach and duodenum by diagnostic imaging. After reduction, the PDH was surgically repaired using the laparoscopic tension-free method with Ventralight® mesh. This mesh is flexible and translucent, and therefore, was easy to use. A sac seroma was diagnosed postoperatively by CT; however, this resolved with conservative treatment (observation only). The postoperative course was uneventful and the patient was discharged. Female sex and obesity are predisposing factors for PDH. Historically, in cases in which PDH was misdiagnosed as a thoracic tumor, thoracotomy was chosen as the treatment method. Increased use of CT has improved diagnostic accuracy, and selection of laparoscopic surgery is increasingly common. The primary repair method, reinforcing method, and tension-free method have all been used to repair PDH, but the tension-free method is becoming more common. Using these methods, the rates of postoperative mortality and hernia recurrence are less than 1%, indicating good outcomes.

はじめに

横隔膜の脆弱な領域から胸腔内に向かって腹腔内臓器が嵌入する状態を横隔膜ヘルニア(diaphragmatic hernia;以下,DHと略記)と呼ぶ.ヘルニア囊の位置により,背側に位置する食道裂孔ヘルニア,傍食道裂孔ヘルニア,後外側のBochdalekヘルニア,前方に位置する傍胸骨孔横隔膜ヘルニア(parasternal diaphragmatic hernia;以下,PDHと略記)などがある1).PDHは一般的にはMorgagni孔ヘルニアの名で知られているが,右側をMorgagni孔ヘルニア,左側をLarrey孔ヘルニアや2),一括してMorgagni-Larreyヘルニアとされるなど呼称が煩雑なため,今回はPDHに統一した.Oppeltら3)によればPDHはDH手術例の約4%とされる比較的少ない疾患である.今回,1手術例の報告および,邦文,英文報告例の655例をレビューしたので報告する.

症例

患者:83歳,女性

既往歴:高血圧,糖尿病,気管支喘息

現病歴:嘔気のために当院内科を受診し急性胃腸炎と診断されたが,嘔吐の出現で1週間後に再診した.その際の単純CTで胸骨背面右側に胃~十二指腸,横行結腸の脱出を認め,DHと診断された(Fig. 1).

Fig. 1 

Part of the stomach (arrowhead) and transverse colon (arrows) identified in the parasternal area on CT at admission.

身体所見:身長130 cm,体重32 kg(BMI 18.9 kg/m2)とやせ型であり,脊柱後彎症を認めた.腹部は平坦で柔らかく,圧痛や腹膜刺激症状はなかった.バイタルサインに異常はなかった.

血液検査および画像所見:血液検査でBUN 102.2 mg/dl,Cre 2.89 mg/dlと脱水による腎機能障害があり緊急入院となり,絶食,輸液管理を開始した.その後の上部消化管造影検査では,胃体下部が右胸腔内へ脱出し通過障害の原因と考えられた(Fig. 2).上部消化管内視鏡所見で,逆流性食道炎と胃体中部の狭窄を認めた.上記より胃,十二指腸の嵌頓を伴うPDHと診断し,腹腔鏡下手術を方針とした.

Fig. 2 

Herniation of the distal stomach into the thorax was confirmed by contrast radiography (arrowheads).

手術所見:手術は3ポートで行った.腹腔内を観察すると肝円索左側にヘルニア門が存在しており,大網および横行結腸が陥入しており,胃十二指腸は嵌入していなかった(Fig. 3A).ヘルニア囊との癒着はなく,嵌頓の解除は容易で,ヘルニア門は約6×3 cmであった(Fig. 3B).囊切除や縫縮は行わず,メッシュを使用したtension free法を選択した.肝円索を切離しベントラライトST®を11×8 cmに楕円形に形成した.メッシュの5,6,7時方向にあたる部位に2-0ナイロンをかけておきメッシュを腹腔内へ挿入し,それぞれの糸を体腔外で結紮した(Fig. 3C).メッシュの腹側を固定した後,全周性に体腔内結紮をバイクリル®にて18針追加した(Fig. 3D).手術時間は158分で,出血量は少量であった.経過は良好で術後10日目に退院した.術後CTでヘルニア囊内の漿液腫を認めたが6か月目には消失しており,ヘルニアの再発も認めなかった.

Fig. 3 

A, B. Laparoscopic view showing the PDH orifice on the left side of the round ligament of the liver. The transverse colon and omentum were present in the hernia sac. Reduction of organs was easily performed. RL: round ligament. C, D. Ventralight ST® mesh in an elliptical form was fixed at the 5, 6, and 7 o’clock positions to the abdominal wall using the extracorporeal technique. Additionally, the mesh was fixed to the entire circumference with the intracorporeal technique.

考察

PDHは1769年にMorgagniが最初に報告し,広く彼の名で親しまれるヘルニアになった4).これまでの最大のレビューは2008年のHortonら5)の298例であった.今回我々は2020年12月27日の時点で「Morgagni」,「Larrey」をキーワードにPubMedは1950年から,医学中央雑誌は1964年から日本語論文と英語論文を検索した.さらに,その関連論文などの報告と本例を含め,成人発症に限定してレビューを行った.ただし,複数報告例で小児例を分別できないものや,内容に不明瞭な点があるものを除外し,症例が重複しないように注意した.結果,邦文141論文と,英文198論文と本例を合わせた655例を検討した(Table 1).単施設での最多症例は2019年のYoungら6)の43例で,本邦では上野ら7)の5例であった.

Table 1  Characteristics of 655 PDH cases, including our case, published in 339 articles in the English- and Japanese-language literature
Characteristics Number of cases Detail Data
Sex 655 Male 28%
Female 72%
Year 512 Range 16–97 yrs
Median 65 yrs
Predisposing factor 262 High intraabdominal pressure 89%
Chronic respiratory disease 11%
Thoracic deformity 11%
Reduction of soma protein 6%
Symptoms 654 Pain/pressure 34%
Pulmonary symptoms 33%
Asymptomatic 23%
Obstruction 23%
Dysphagia 3%
Bleeding 2%
GERD 2%
Hernia contents 617 Omentum 74%
Colon 60%
Stomach 15%
Small intestine 12%
Duodenum 1%
Another organ 1%
Treatment 647 Surgery 94%
Non-surgery 6%

症例は男性27.9%,女性72.1%で女性が多く,年齢は16~97歳(中央値65歳)であった.発症の誘発因子として従来から,肥満,外傷,妊娠などが挙げられており5),各論文からこれら因子を抽出し,さらに事象別に分類した.結果は,のべであるが腹腔内圧上昇:234例(肥満,体重増加,分娩,腹部外傷),慢性呼吸器疾患:29例(喘息,COPDなど),骨格の変形28例(脊椎後彎,鳩胸,脊椎圧迫骨折など),筋蛋白の減少15例(やせ,体重減少など)と,多くは腹腔内圧の上昇が関与していると考えられた.このなかで,「肥満」の記載のある症例や,BMI 25 kg/m2以上の症例は156例あり,特にPDHと関連の深い因子と考えられた.BMI最高値は66 kg/m2でスリーブ状胃切除とPDH修復を同時に行っていた8).また,術前に10 kgの減量プログラムを行っていた症例もある9).COPDなどは横隔膜の筋節が10~20%減少することや,横隔膜が引き上げられることが知られていることから10),慢性呼吸疾患も一つの事象とした.別に,先天的要因を示唆するものにダウン症4例11)~14),Malfan症候群3例15)~17),毛髪鼻指節骨症候群が1例18)あった.Malfan症候群の有病率は5,000~10,000人に1人であり19),PDHに占める頻度は高いと考えられた.我々の経験した手術症例は喘息,脊椎後彎,やせなど複数の因子が関連していた.

PDHの症状は,Hortonら5)の論文で使用された項目と同一にして調査した.閉塞症状のない疼痛や圧迫感および不快感34%,咳嗽や呼吸不全などの呼吸器症状33%,症状なし23%,閉塞症状23%,嚥下困難3%,出血2%,逆流2%などがあった.

診断は,かつては単純レントゲンや消化管造影,さらに腹腔内に空気を注入してのレントゲン撮影などが用いられたが,1963年には光永ら20)により腹腔鏡診断も行われた.CT診断の最初は邦文で1981年21),英文で1984年であった22).1949~85年の108例の正診率は59%で,27%が胸腔内および縦隔腫瘍と診断されていた.最近の10年間では,誤診例はほぼなくなった.

ヘルニア囊の最大径は2015年に報告された37歳女性の18 cmで,治療は開腹しメッシュが使用された23).嵌入臓器はのべで,最多が大網74%で,結腸60%,胃15%,小腸12%と続くが,稀有な例として膵臓15),脾臓3)もあった.

手術は94%の症例に行われていた.診断から20年以上経過した73歳時に緊急手術となった例24)や,症状を繰り返すために結局は手術となったハイリスクな高齢患者25)など,診断から期間を経ている例がみられた.嵌入臓器の整復が困難であったという記載は非常に少なく26),96例で容易であった旨が記載されていた.本例のように囊内での胃の嵌頓や捻転による胃,十二指腸の流出路の狭窄,閉塞は67例10%にみられていたが,嘔吐など症状の強さから12例で緊急手術が行われていた.胃穿孔に陥ったのは1例のみ27)で,胃切除例はなかった.小腸の切除例も1例のみだが28),大腸では穿孔3例29)~31)と虚血による腸切除3例28)32)33)の報告がある.多い印象を受けるが,嵌入率が高いためと思われた.1953年であるが,剖検で大腸穿孔を確認した例もあった34)

PDHの手術関連の詳細についてTable 2にまとめた.PDHの修復術は三つの方法に分かれていた.囊切除の有無にかかわらず,(1)ヘルニア孔を縫合で閉鎖する(以下,primary repair法と略記),(2)(1)に加えメッシュで補強する(以下,補強法と略記),(3)ヘルニア孔にメッシュを被覆し閉鎖(以下,tension free法と略記)である.それぞれの手術数は390,57,141例と総数のみではprimary repair法が多い.手術における検討項目として①アプローチ法の変遷,②ヘルニア囊切除の是非,③メッシュ使用の現状,④メッシュ固定法の変遷,⑤合併症について,それぞれ修復術の3法を加えて調査した.

Table 2  Characteristics of surgery for PDH
Characteristics Detail Total number of cases Approach
Thoracotomy VATS Laparotomy Laparoscopy
592 183 (31%) 17 (3%) 220 (37%) 210 (35%)
Procedure (n=588) Primary repair 390 (66%) 152 11 174 71
Reinforcement 57 (10%) 5 2 13 40
Tension-free 141 (24%) 0 2 24 96
Post-operative complications (n=540) Pleural effusion, seroma 27 (5%) 1 0 6 20
Pneumonia, pleuritis, atelectasis, asphyxiation 15 (3%) 3 0 9 3
Another hernia 10 (2%) 1 1 7 1
Surgical site infection 7 (1%) 1 0 6 0
Cardiac failure, tamponade, pulmonary edema 6 (1%) 1 0 2 3
Hemothorax, pnemothorax, hematoma 5 (1%) 0 0 0 5
PDH recurrence 5 (1%) 1 0 1 3
Post-operative death (n=544) 4 (0.7%) 0 0 3 1

VATS: video-assisted thoracic surgery.

①:アプローチ法は,のべで開胸31%,胸腔鏡3%,開腹37%,腹腔鏡35%であり胸腔鏡アプローチが少ない傾向にあった.胸腔内腫瘍の診断の多かった時代は,開胸手術が多く選択されていたこともあり,開胸,開腹のどちらが優れているかが話題となっていた.開胸操作のメリットは,肥満症例における良好な視野,胸腔内の癒着の多い場合の安全性35)が挙げられた.しかし,胸腔で開始も開腹を必要とした症例が4%に対し開腹で開始した後に胸腔鏡を含めた胸腔操作を必要とした割合は1%と少ない傾向がみられ,腹腔アプローチの優位性を示唆している.胸腔鏡の手術への最初の応用は,1995年の本邦のAkamineら36)で,ミニ開胸と併用した.最初の腹腔鏡手術は1992年のKusterら37)で,2000年以降に増加し,2010年以降は開胸23例,胸腔鏡8例,開腹37例,腹腔鏡105例と主流になった.Youngら6)は腹腔鏡手術では有意に入院期間が短いことを利点に挙げている.腹腔鏡下ではprimary repair法71例,補強法44例,tension free法98例が行われた.Primary repair法では縫合法が体腔内や体外結紮が行われている38).また,現在ではより低侵襲を目指したreduced port surgery39)~41)やロボット支援手術の報告42)~44)も増えている.Reduced port surgeryの3例はtension free法であるが,ロボット支援では5例とも補強法であった.

②:囊切除(n=415)は71%に行われていた.切除の是非については,従来の外科理論に基づき切除がよいという意見がある45)一方,否定的な意見として,慣習的でありメリットを示した報告はない46),切除にこだわる必要がない47),腹腔鏡手術では縦隔気腫など重篤な合併症を引き起こす可能性があるので行うべきではない48)などである.結論は出ていないが,非切除であるtension free法が急増しており,現在では,囊切除をする必要はないと判断している外科医が多いと思われる.

③:メッシュ登場以前の補強手段として,1949年のParellaら49)は腹横筋と腹直筋フラップを示した.メッシュ使用のもっとも古い記載は1982年で,村山ら50)が横隔膜の補強にフェルトパッキングを行っている.開胸,開腹のopen術式では,メッシュは主にヘルニア門の閉鎖が困難な状況で20例に使用された23)(tension free法19例,補強法1例).過去の製品は,臓器との癒着や,それによる瘻孔形成などの不安があり51),メッシュを腹膜52)や大網で被覆する53)工夫も行われた.これまでの腹腔鏡下手術の67%にはメッシュが使用されている.メッシュ使用による利点は,鼠径ヘルニアの前向き試験ではメッシュ使用によって再発率が減少しているとの報告があり,利点と考えられる54).素材はポリエステル,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene;以下,PTPEと略記),動物繊維がある.最近では囊側の組織への癒着と,腹腔臓器に対して非癒着という相反する二面を有する製品がPDHで使用されるメッシュの主力になっている.これら製品の進歩により,腸管など臓器との癒着による合併症の懸念は減少した55).腹壁瘢痕ヘルニアに対する素材の動物実験でも,二面の製品が推奨された56).メッシュの素材,商品名など記載のあった179例では,1980年~90年代にはポリエチレン製剤の使用が9例あり,2000年頃にはポリプロピレン製剤が36例,癒着の少ないPTPEが7例に使用された.2005年頃からは二面性を有した素材が42例で使用されている.2015年以降には同様にPROCEED® 6例,ベントラライト® 5例18)57)~59),豚小腸を使用したSURGIS®が2例報告された.本例で使用したベントラライトST®は組織補強のポロプロピレン製メッシュ面と,癒着防止のPGA繊維面にヒアルロン酸ナトリウムおよびカルボキシメチルセルロースをコーティングした製品である.これら二層メッシュは補強法には向いているが,tension free法は癒着の少ない素材のみで十分である.むしろベントラライト®の利点は,柔軟でサイズ調整が容易であること,半透明のため固定する腹壁との視覚的な関係性が得やすいことにあった.村上ら58)は腹壁瘢痕ヘルニア症例においても同様の意見を述べている60)

④:メッシュの固定は,記載のあった96症例のうち,縫合のみ35%,タッカーやステープラーによる固定55%,縫合+ステープラー22%であった.2000年代にタッカーやステープラーのみの使用が多く,2015年以降は減少傾向にあり,タッカーやステープラー+縫合法が増加している.横隔膜の固定に金属製のステープラー,タッカー使用については危険性も指摘されている61).Köckerlingら62)はDHのメッシュ固定後に心タンポナーデが発症した25例を2018年に分析し,48%と高い死亡率を挙げ,心臓,大血管周囲における固定にはタッキングを避けるよう警告している.PDH例では合併症を避けるための工夫が報告されている46)が,右心耳の裂傷の報告が1例ある63).最近では補強法に接着剤を使用した例も報告された64).固定素材の縫合糸もしくはタッカーについては吸収性が症例の15%,非吸収性が85%であった.自験例は二層性のメッシュを使用しているため,固定には吸収糸を使用した.同様に吸収性で固定をした85%は二層性のメッシュを使用していた.固定について吸収性の糸を使用すべきか否かについて検討した文献は見当たらなかった.

⑤:手術関連死亡は0.7%と1%未満であり,後述する再発例も1%未満であることから手術成績はおおむね良好と思われた.死亡例の詳細はショック状態で緊急手術を行った高齢女性の術後嘔吐例65),膿胸併存患者の大腸穿孔例66),拘束性肺障害と肺性心患者の大腸,小腸嵌頓による緊急手術例67),術後13日目にCOPD悪化の47)4例である.呼吸障害併存例は死亡リスクが高いことが示唆された.何らかの合併症の記載は66例(12.2%)にみられた.合併症の全体像はTable 2を参照いただきたい.最多は胸水もしくは囊内の漿液腫27例(5.0%)であった.腹腔鏡手術例で漿液腫が20例あり,tension free法が16例を占めたが,穿刺を要したのは1例のみだった68).本例も含め,tension free法後の漿液腫は2~10か月で縮小,消失し58)69),原則的に経過観察のみで許容されると思われる.ただし,腹腔鏡症例では他に血胸3),囊内血種70),気胸71)の報告もみられ注意が必要である.開腹症例では創感染6例,腹壁瘢痕ヘルニア7例が多くみられ,創離開6)67)や脾臓摘出を必要とする脾損傷72)などの重篤な合併症も報告された.また,PDH再発に関連した手術報告が5例みられた6)14)73)~75).このうち腹腔鏡手術が3例,メッシュ使用が2例あった.一度目の手術についての詳細は不明であるが,少数例であった.以上より,現状では腹腔鏡手術で開始することが標準的と考えられる.ただし,合併症や再発を防ぐために術前の評価,術式の検討はもちろん,術中の適切な判断と対応が必要と考えられた.

我々の症例は高齢であったが,低侵襲な腹腔鏡手術でtension freeの選択が良好な結果をもたらしたと考えている.

利益相反:なし

文献
 

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