1996 年 29 巻 11 号 p. 2165-2169
症例は54歳の男性で, 下部胆管癌のため, 幽門輪温存膵頭十二指腸切除術を施行した.術後, 腹腔内ドレーンから多量の排液がみられ, 経口摂取とともに乳白色となり増量した.トリグリセライド2,700mg/dlを含有し, 乳糜腹水症と診断した.低脂肪食と高カロリー輸液などの保存的治療を始めたが改善せず, 術後50日目に再手術を施行した.腸間膜根部の腸リンパ本幹断端と考えられる部位から乳糜液の流出が認められ, 同部を周刺結紮し治癒した.術後に発生する乳糜腹水症の報告は非常に少なく, 特に膵頭十二指腸切除術後に発生したものは, 過去30年間に1例報告されるのみであり, その治療方針は確立されていない.本例のように術直後からリンパ液の多量の流出を認める場合は, 難治性のことが多く, 保存的治療にあまり固執することなく手術に臨むべきものと思われた.