抄録
症例は62歳の男性. 下腹部痛と嘔吐を主訴に来院, 入院した. 入院時理学的所見では, 脈拍114/min, 体温37.1℃, 右下腹部に圧痛と反跳痛がみられ, 右鼠径部に用手的に還納可能な膨隆がみられた. 血液検査では白血球数16,300/μl, CRP値38.5mg/dlと炎症所見がみられ, 腹部単純X線写真では右下腹部にガス像がみられなかった. 腹部computed tomography (以下, CT) では右中下腹部に高吸収部を中心とする渦巻状層状あるいは同心円状構造がみられ, 右鼠径部ultrasonography (以下, US) では膨隆部内に境界明瞭な高エコー構造がみられた. 小腸重積症の診断で緊急開腹したところ, 右鼠径ヘルニアによる続発性大網捻転症との術中診断を得た. 大網捻転症は本邦報告例91例とまれな疾患で, 一般に術前診断は困難である. しかし自験例では腹部CTで典型的な像を得ており, 鼠径部USとあわせて続発性大網捻転症との術前診断は可能であったと考えられた. 急性腹症の鑑別診断にはCTとUSの所見を重視すべきであると考えられた.