1998 年 31 巻 10 号 p. 2108-2112
本邦では外科的治療を要する重症腸チフスは非常にまれである. 今回, 我々は63歳の男性の1例を経験した. 症例は当初他院で原因不明の発熱として治療され, 大量下血によるショックを来し当院転院となった. 血管造影で回腸動脈から造影剤漏出を認め, 開腹術を施行した. 小腸の動脈性出血と後腹膜に被覆された穿孔を認め, 小腸および腸間膜に広範に触知する硬結を可及的に含む小腸切除を施行した. 血液培養でSalmonella typhiが同定され腸チフスと診断した. 腸チフスによる消化管出血に対する血管造影の有用性は海外では数例報告されているが, 本邦での報告例はない. また本病態に対しては従来保存的治療が推奨されてきたが, 近年は積極的な手術療法が報告されている. 術式は数種類推奨されているが, 病変部位を広範囲に切除することが肝要と思われる. 下部消化管出血や穿孔の治療にあたっては本症を念頭に置き, 術中診断のために本症の消化管所見を熟知しておく必要がある.