2005 年 38 巻 12 号 p. 1828-1834
症例は61歳の男性で, 腹腔内嚢胞性腫瘤・腹膜偽粘液腫・早期胃癌の診断で開腹し, 巨大脾嚢胞摘出術と偽粘液腫除去手術のみ施行した. 免疫染色で腹水粘液はMUC1 (-) MUC2 (+) MUC5AC (+), 脾臓はmucinous epithelial cystで嚢胞壁細胞はCK-7 (-) CK-20 (+) CEA (+) Vimentin (-) を示し, 下部消化管に原発巣の存在が強く示唆された. 7か月後再開腹し, 胃局所切除術と虫垂切除術を施行, 粘液性腹水と腹腔内粘液腫の消失が確認された. 一方, 虫垂に粘液.胞腺癌が見い出され, 病理学的に虫垂原発腹膜偽粘液腫と最終診断された. 虫垂は外見上正常で病理学的に悪性度の低い病巣であるのに対し, 2次性脾病変が著明に巨大化した本症例の特異な病態の機序につき文献を参考に考察した結果, 虫垂の粘液嚢胞腺癌の粘液細胞が腹腔内に散布され, 一部が脾門部に集積して脾内に侵入し, 過剰生産されたMUC2ムチンが, 虫垂とは異なりドレナージ経路のない脾内に多量に貯留したものと考えられた.