日本住血吸虫卵が介在した多発早期大腸癌症例を経験したので報告する. 症例は85歳の女性で, 高血圧, 糖尿病で当院内科通院中, 血便を自覚し精査施行した. S状結腸に1'型の隆起性病変および上行結腸に多発ポリープを指摘され, 手術目的で当院入院となった. S状結腸切除および上行結腸粘膜切除術を施行した. 病理結果はS結腸が腺腫内癌, 上行結腸が腺腫 (2病変) と腺腫内癌 (1病変) であった. また, 摘出したS状結腸および上行結腸の粘膜下を中心に多数の日本住血虫卵を認めた. 日本住血吸虫症と大腸癌発生との関連性については相反する報告があり一定の見解を得ていない. 本症例は虫卵が非癌部の粘膜下層に多く認められ, 虫卵と発癌との因果関係を強く示唆するものではなかったが, 多発性病変を有することからpseudopolypからadenomaへ, さらには癌へ移行する発癌機序が完全に否定されるものではないと考えられた.