抄録
症例は73歳の女性で, 肝細胞癌にて内科的治療を繰り返し施行されていた. 経過観察中に突然腹痛が出現したため, 腹部CTを撮影したところ肝S4に径2cmの肝腫瘍, 肝内胆管拡張, 総胆管内に高吸収域を認めた. 上部消化管内視鏡検査でVater乳頭部からの出血を認め, 肝細胞癌の胆道出血が疑われた. 腫瘍塞栓の成長が急速であり総胆管まで達していたため, 拡大肝左葉切除術を行った. 術後の病理組織学的検査では混合型肝癌であった. 術後14か月で肺および残肝再発を来したものの, 術後24か月現在生存中である. 胆管内発育し胆道出血を来した混合型肝癌の報告例は本邦では1例を認めるのみであり, 本症例は非常に貴重な症例と考えられた.一般に, 胆道出血を伴う肝細胞癌の予後は不良であるが, 切除症例には長期生存例も見られることから, 混合型肝癌でも可能であれば本症例と同様に積極的に肝切除を行うことで良好な予後が得られる可能性があると思われた.