症例は59歳の男性で, 腹痛を主訴に受診した. 来院時, 上腹部を中心に筋性防御を認め, 板状硬であった. 血液検査では炎症反応の上昇と, 肝機能・腎機能障害およびCKの上昇を認めた. CTでは胃壁の浮腫による著明な肥厚と少量の腹水を認め, 上腹部腸管を原因とする腹膜炎の診断にて審査腹腔鏡を行った. 血性の腹水および胃の虚血性変化を認めたため, 術中胃内視鏡検査を施行した. 胃体中部から前庭部にかけ粘膜の脱落と潰瘍性病変および暗赤色性の変化を認め, 胃壊死と診断, 開腹に移行し胃全摘術を行った. 病理組織学的診断では潰瘍部に中分化腺癌を認め, 深達度はmpであった. また, 膿瘍を形成する好中球浸潤を全層に認め, 一部菌塊を伴っていた. 全層性の壊死を伴っている部位も認めた. 胃壊死の原因としては, 癌の潰瘍部からの感染が考えられた. まれな症例と考えられたので, 文献的考察を加え報告する.