日本衛生学雑誌
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ヒトの気候順応能に関する研究 第6報
日本の気候下に於ける一般市民日本人と白人の血清の遊離脂肪酸の季節変動
阿賀 倶子
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1976 年 31 巻 3 号 p. 433-444

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抄録

先に陳・槌本が報告したBMRと血清PBIに関する研究と併行して,同じ日本の気候に曝露される日本人10名と,白人10名の被検者について,血清遊離脂肪酸(FFA)濃度を1972年6月から毎月1回1年間にわたりItaya-Ui変法を用いて測定した。
(1) 血清FFA値の年間平均値には日本人と白人の間に差がなかった。これは教室の山口の米軍人と日本自衛隊員と比べて前者が有意に高かったという報告とは異なる結果である。そして白人のFFA値は1, 2月の厳冬期に日本人に比べて低く,かつこの季に大きく低下する動きを示し,その年間変動率(49.6%)は日本人(25.2%)よりも有意に大きかった。この点も山口の結果とは逆であった。また白人でも日本に移住して間もない者の寒期の低下は著しかった。
(2) FFA値とBMR値とは,日本人では有意の正相関を呈したのに対し,白人では負の相関傾向を示した。両計測値を各個人の平均に対する各月の変動率でみると白人の負の相関係数は有意であった。また季節別にみると,夏期のFFA値とBMR値との関係は日本人,白人とも正相関の傾向にとどまるが,冬期には日本人は正相関傾向を示すのに反して白人では有意の負の相関を示した。
山口は冬の居住気温が日本人で10°Cも低かった事が主因となって,日本人の方がより強く寒冷に順応されたものと解しているが,(1), (2)の結果を綜合すると,本研究では逆に白人被験者の方が強く寒冷に順応したものと解される。したがってFFA値の水準や季節変動には人種的な差はなく,その寒冷期の居住環境が大きく関与すると推論された。血清PBI値とFFA値とは両群とも負の相関傾向を呈した。血清FFA値と基礎代謝の呼吸商(RQ)の間に年間を通じて有意ではないが負の相関傾向がみられた。

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