高齢化とともに老人の健康資本は不可避的に磨耗せざるをえない。これによって医療(老人保健)だけでなく、医学的な見地よりも広い意味で身体機能の衰弱をカバーするための介護ケアが必要となる。介護保険制度は老人が自立的に被保険者として介護サービスを需要するものと想定している。そこでこの論文では、老人が医療及び介護サービスを自らの判断で最適に選択するというモデルを構築した。このときキーとなるのが健康資本の概念で、健康人の健康資本の水準をHoとするとき、高齢化によって老人の健康資本はδという率で磨耗していると仮定する。するとt時点での老人の健康資本Htは Ht=(1−δ) Ho と表現できる。
このような概念を導入することにより、介護保険制度の下で医療(老人保健)支出と介護支出との関係がどのように変化するかをδを中心として分析し、要介護度の上昇が与える影響を明らかにした。