本論文では、どのような人が健康増進行動(予防行動)をとっているのか、そして、予防行動が健康形成にどう影響するかについて分析する。先行研究では、個人が取り組む予防行動は複数存在し、それらの誤差項は互いに相関することが指摘されている。加えて、予防行動が健康形成に与える影響を分析する場合、健康状態が予防行動に影響するという逆の因果関係が存在する可能性も考えられる。また、健康状態として主観的な評価を使用すれば、個人の健康意識の違いや評価基準など主観的健康状態を説明する観察できない要素が存在し、これらが予防行動と相関する可能性も問題とされている。
本論文では、個人の時間選好率や危険回避度の違いが予防行動の決定に影響するという先行研究の結果を利用して、複数の予防行動(栄養バランスを考えた食事、定期的なスポーツ、禁煙・節煙、十分な睡眠・休養)の誤差項どうしの相関、予防行動と健康状態を同時に説明する観察されない属性の存在を考慮しながら、予防行動と健康形成の関係を分析する。
独自のアンケート調査を用いた分析の結果、時間選好率や危険回避度を考慮しても、予防行動の誤差項どうしが正の相関関係にあることを統計的に確認する。複数の予防行動の決定を同時に分析することが重要であることがわかる。そして、このことを考慮しても、十分な睡眠・休養という予防行動そのものが健康度を増加させることを指摘する。