医療経済研究
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22 巻, 1 号
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巻頭言
特別寄稿
  • 田中 政宏
    2010 年22 巻1 号 p. 5-29
    発行日: 2010年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    世界的には新しいワクチンの開発と公衆衛生事業への導入が続き、先進国のみでなく途上国を含めて広く普及しつつある。これらの新しいワクチン、また世界的には広く使用されていながらわが国では定期接種となっていないワクチンを普及させることで減らせる疾病負担は、わが国でも依然として大きい。しかしながら、わが国の予防接種事業は世界的に見ると立ち遅れており、またその実施は科学的証拠によるのではなく、行政・司法の判断が主導という特異な形態になっている。そしてその立ち遅れは、わが国の過去の副反応関連訴訟における科学的根拠に基づかない判決、そして副反応に対するメディアの一面的な対応に起因する、行政の立ち去り型サボタージュともいえる。副反応への対策は予防接種事業の推進に不可欠であるにもかかわらず、わが国にはその問題を客観的に検討できない文化があり、また専門家や医療従事者の多くは副反応と関連課題への対応には無関心であった。さらに、メディアは社会における同事業の便益とリスクについてバランスの取れた情報を提供してきたとは言えない。今後わが国において同事業を推進するためには、社会全体の「最大多数の最大健康」を達成するとの視点で行政と専門家が協調しながら、国民、メディア、司法関係者、臨床家に向けて事業の特性の理解を普及させてゆくとともに、中長期的な国家戦略を策定し、またそれを実現し様々な事業課題に対応できるように予防接種法と関連法規の改正を含めた抜本的な制度改革が必要である。

論文
  • 村田 達教, 矢野間 朗子, 白神 誠
    2010 年22 巻1 号 p. 31-44
    発行日: 2010年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    平成20年4月より実施されている特定保健指導の下で、食事、運動、禁煙の観点からの指導が十分な効果を示さなかった時に医薬品を使用することも考慮すべきではないか、さらにそのような医薬品がOTC薬(一般用医薬品)として提供されれば、医療費を削減する上で一層の効果があるのではないかと考え、特定健康診査において特に脂質異常に対する何らかの対策の必要性を指導された者が、OTC薬化された脂質異常症治療薬(以下、一般用脂質異常症予防薬(プラバスタチン10mg相当の薬剤を想定))を使用したセルフメディケーションによって自らの血清コレステロール濃度をコントロールすることが、医療費の削減にどの程度寄与することができるのか分析した。その結果、一般用医薬品を使用したプログラムは使用しないプログラムに比べ対象者を40歳とした場合、獲得生存年が0.17年延長し、費用は、43万6000円減少するドミナントとなった。また、国民全体での医療費削減額は、今後10年間で1,377億円、20年間で6,056憶円と推計された。この一般用医薬品の導入による医療費削減効果は、医療費の負担の一部を一般用医薬品を利用することによるセルフメディケーションに転換したためとも考えられ、一方で患者負担の増加をもたらす可能性がある。そこで患者負担の軽減を図るために一般用医薬品の費用の一部を保険者が負担するとの仮定をおいた保険者の立場での分析を追加した。その結果、医療費の削減が相殺される保険者の負担額は、35,432円であった。ちなみに、この年間の負担は、一般用医薬品の価格をメバロチンの薬価(2008年改訂)と同額とした場合、患者負担の約79%を負担できることを意味している。

  • 橋本 英樹
    2010 年22 巻1 号 p. 45-46
    発行日: 2010年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス
  • 梶谷 真也, 小原 美紀
    2010 年22 巻1 号 p. 47-62
    発行日: 2010年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    本論文では、どのような人が健康増進行動(予防行動)をとっているのか、そして、予防行動が健康形成にどう影響するかについて分析する。先行研究では、個人が取り組む予防行動は複数存在し、それらの誤差項は互いに相関することが指摘されている。加えて、予防行動が健康形成に与える影響を分析する場合、健康状態が予防行動に影響するという逆の因果関係が存在する可能性も考えられる。また、健康状態として主観的な評価を使用すれば、個人の健康意識の違いや評価基準など主観的健康状態を説明する観察できない要素が存在し、これらが予防行動と相関する可能性も問題とされている。
    本論文では、個人の時間選好率や危険回避度の違いが予防行動の決定に影響するという先行研究の結果を利用して、複数の予防行動(栄養バランスを考えた食事、定期的なスポーツ、禁煙・節煙、十分な睡眠・休養)の誤差項どうしの相関、予防行動と健康状態を同時に説明する観察されない属性の存在を考慮しながら、予防行動と健康形成の関係を分析する。
    独自のアンケート調査を用いた分析の結果、時間選好率や危険回避度を考慮しても、予防行動の誤差項どうしが正の相関関係にあることを統計的に確認する。複数の予防行動の決定を同時に分析することが重要であることがわかる。そして、このことを考慮しても、十分な睡眠・休養という予防行動そのものが健康度を増加させることを指摘する。

  • 吉田 あつし
    2010 年22 巻1 号 p. 63
    発行日: 2010年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス
研究ノート
  • 冨尾 淳, 小林 廉毅
    2010 年22 巻1 号 p. 65-78
    発行日: 2010年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では、熊本県のある自治体の国民健康保険(国保)被保険者全数を対象として、過去の健康診査(健診)結果を用いて、心血管リスク(高血圧、高血糖、脂質異常、肥満)の保有状況とその後の医療費の発生状況との関連を後向きに分析し、将来の医療費増大の予測因子を同定した。また、健診結果の評価指標として特定健康診査・特定保健指導の基準を適用し、同制度が将来の医療費に与えうる影響について考察した。医療費は2006年5月から2007年4月の1年分の国保レセプトを用いて算出し、1人当たりの医科・調剤医療費を従属変数とした。各自治体の2005年(1年前)、2001年(5年前)、1996年(10年前)の基本健康診査の結果を名寄せし、レセプトデータと被保険者単位で突合することにより各年の心血管リスク保有状況と医療費の関連について解析を行った。
    解析対象者608人のうち、男性194人(32%)、女性414人(68%)であり、平均年齢は各72.6歳、70.8歳であった。男性では10年前の高血圧、1年前の高血糖、女性では5年前の高血圧、10年前の高血糖、5年前および10年前の肥満の各リスク保有群でリスクなし群に比べて、現在の1人当たり医科・調剤医療費が有意に高額であることが確認された。また、特に男性において、支援対象とならない肥満のない複数リスク保有者も将来の医療費が高額となる傾向がみられた。今後、レセプトデータ、健診データがさらに有効活用できるような環境整備が望まれる。

  • 林 行成
    2010 年22 巻1 号 p. 79-90
    発行日: 2010年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    近年、効率的な医療提供を実現する目的で、医療の機能分化が政策的に進められている。しかしながら、こうした医療の機能分化が社会に与える影響について、これまで経済学的な分析は十分になされてこなかった。本稿では、各医療機関が自身の医療資源をある医療分野に集中させるという特化行動を通じて医療の機能分化が形成される状況を想定し、単純化された経済理論モデルを用いて様々な機能分化のパターンを特定する。また、ロールズ型社会厚生関数を用いて医療の機能分化の社会厚生に与える影響を検討する。さらには、医療の機能分化が進められる状況下で社会的最適解を導くための医療提供体制について考察する。本稿で得られる主要な結論は、以下の2点である。
    1. 各医療機関において特化戦略が採用されるとき、少なくとも地域の社会厚生を高めるためには、各医療機関が個別の医療分野に特化することが必要である。このような分業型特化均衡が実現されるには、各医療分野に対する診療報酬上での価格差が一定の範囲以内に収まることが条件となる。このことは、診療報酬制度におけるインセンティブ政策としての機能が低下することを示唆している。
    2. 分業型特化均衡が、必ずしも地域での社会厚生を最大化させる社会的最適解を導くとは限らず、分業型特化均衡が社会的最善解を導くためには、各医療機関の保有労働量の格差がある一定の比率であることが必要である。各医療機関の保有労働量に相応の格差がある場合に、社会的最適解を実現するには、一方の医療機関が利潤最大化行動を、他方の医療機関が公益性を重視した行動原理を採用していることが条件となる。この結果は、公私協働による医療提供体制の効率性を示唆しており、採算性を重視する医療機関と公益性を重視する医療機関の双方の存在意義を見出すことが可能である。
    以上の結果は、医療の機能分化を進めていく上で、インセンティブ政策としての診療報酬制度の運用についてより慎重に検討し、特に各地域で中核的に医療提供を行っている医療機関に対して公益性を確保させるような取り組みが、重要な課題となることを示唆している。

  • 河口 洋行, 井伊 雅子
    2010 年22 巻1 号 p. 91-108
    発行日: 2010年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、公的医療保険に未加入或いは未納で公的医療保険が利用できず、一方で生活保護制度の医療扶助も利用できない世帯の実態を所得再分配調査の個票を用いて分析するものである。
    本研究では、まず医療保険料の不払い世帯を擬制的に実質的な無保険者とみなして、その世帯を特定した。一方で、生活保護の受給世帯をその他社会保険給付の金額から特定した。その上で、公的医療保険が利用できず、かつ生活保護を受給していない世帯を独自に「谷間世帯」と定義した。この谷間世帯について、それ以外の非谷間世帯と基本統計を比較するとともに、谷間世帯か否かダミー変数を被説明変数としてプロビット分析を実施し、谷間世帯になる要因を探った。
    その結果、この谷間世帯は全サンプルの約12.7%と、先行研究に比して妥当な水準となった。併せてプロビット分析の結果、社会保険への未加入・未納に関する先行研究が確認している流動性制約仮説は、本研究でも支持された。そのほかに、谷間世帯になる可能性は、短期雇用などの不安定な雇用環境の場合には高まり、世帯人数が多いことや母子世帯であることは低まることが示唆された。更に、サンプルを貧困世帯に限った場合には、その他の条件が一定であれば年齢が低いほど谷間世帯になりやすいことが示された。

研究資料
  • ~医療関係者が呈する問題点への企業側の対応について~
    今井 康人, 飯島 肇, 蓮沼 智子, 山田 好則, 渡邉 誠, 武藤 正樹, 鈴木 順子, 伊藤 智夫
    2010 年22 巻1 号 p. 109-121
    発行日: 2010年
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】近年、厚労省主導で後発医薬品(以下「ジェネリック医薬品」)の利用促進策が進められている。しかし、特に「抗がん剤」へ焦点をあてた場合、抗がん剤特有の問題が存在するため、その普及についてはクリアすべき諸問題が多々あることが想像できる。このような状況を踏まえ、特にジェネリック医薬品製造販売企業の立場から見た抗がん剤ジェネリック医薬品に対する現況での認識や問題点、更にその必要性等についてアンケートにて調査し、中心となる問題の洗い出し、分析を行った。加えて医療関係者へのアンケート調査も併せて行うことで使用する立場から見た問題点も抽出し、検証を行うこととした。
    【方法】日本ジェネリック医薬品学会に所属するジェネリック医薬品製造販売会社を対象として、2008年10月~2008年12月の期間にてアンケート調査を実施した。また、医師(病院勤務医師および開業医師)、薬剤師(病院薬剤師、薬局薬剤師)および薬学生(大学院博士課程履修学生)に対して2008年8月~2008年12月の期間においてアンケート調査を行った(回答選択式(複数回答可)及び自由回答併用)。
    【結果】ジェネリック医薬品製造販売会社28社を対象にアンケート調査を行ったところ18社より回答を得た。(回答率64.3%)。また医療関係者へのアンケート調査において、医師49名、薬剤師29名、薬学生54名より回答を得ることができた。抗がん剤ジェネリック医薬品に対していずれの企業も「魅力的な医薬品」と回答しているが、現状において製造販売することについて様々な問題点を抱えているため開発することに躊躇する傾向が見られた。一方、医療関係者では抗がん剤ジェネリック医薬品の必要性について認識しているが、現状での使用状況で普及していくことには否定的な見解が多数を占めた。
    【考察】抗がん剤ジェネリック医薬品は極めて細胞毒性の高い医薬品のジェネリック医薬品であるため他の医薬品と同次元で取り扱うのは不合理であり、問題点が数多く存在することは紛れもない事実である。しかし、医療行政の動向からジェネリック医薬品への切り替えが進むのはほぼ必然でもあり、今後は医療関係者に抗がん剤ジェネリック医薬品への不安を抱かないだけの十分なエビデンスの提供を臨床、企業および大学の3極が連携をとりながら検討していく必要がある。

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