2012 年 24 巻 1 号 p. 18-32
近年、深刻な産婦人科の医師不足に対し、新たな医療提供体制の構築を目指し、集約化が試みられている。しかしながら、集約化は同時に診療科の閉鎖を伴うため、周辺地域に居住する妊婦に医療アクセスの低下という問題を招いている。
そこで本稿では、集約化を実施した地域に居住する妊婦を対象に、施設選択における医療アクセスの影響を分析する。まず、【医療施設の位置】、【居住地域】、【交通手段】、【通院距離の変化】、【通院時間の変化】の地理的空間的要因から、医療アクセスの影響を詳細に評価する。このとき、施設要因と比較して、集約化に伴う地理的空間的制約が妊婦の選択にどのように与えるかを実証する。さらに、施設選択が地理的空間的要因や施設要因以外に、妊婦の社会的経済的要因からの影響も受けるかどうかを検証する。
妊婦の選択対象となる医療施設を次のように分類した。まず、集約化後継続して産科を行う病院(以下、【集約化後継続する病院】)と【それ以外の医療施設】の2つのカテゴリーに分類する。さらに【それ以外の医療施設】は、新生児集中治療室(NICU)をもつ総合病院(以下、【それ以外のNICUをもつ総合病院】)、それ以外の総合病院(以下、【それ以外の総合病院】)、産院や診療所(以下、【産院・診療所】)の3つのカテゴリーに分け、入れ子型ロジットモデルで分析を行った。
分析の結果、妊婦の施設選択は、【居住地域】、【通院距離の変化】、【通院時間の変化】などの地理的空間的要因からの影響を受けるが、その度合いは施設要因より小さいことが明らかとなった。このことから、妊婦の施設選択は、地理的空間的要因の影響があるが、その影響は必ずしも強くない。また、どのカテゴリーにおいても社会的経済的要因からの影響は認められなかった。さらに、施設要因による影響はカテゴリーに応じて異なっており、【集約化後継続する病院】を選択する妊婦は、総合医療施設機能などを重視する傾向にあるのに対し、【それ以外の医療施設】を選択した妊婦は、評判や待ち時間が有意に働く結果となった。