医療経済研究
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研究資料
過疎地域における公的医療供給の事例分析
―岩手県沢内・藤沢両モデル、島根県隠岐モデルの成果と教訓―
桒田 但馬関 耕平内山 昭橋本 貴彦
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2012 年 24 巻 1 号 p. 33-55

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抄録

日本の地域医療は構造的危機が続いているが、都市部と農村部とでは様相を大きく異にする。地域医療及びその中核である公的医療供給は、農村・過疎地域におけるハード・ソフト両面から住民生活や地域社会にとって不可欠のインフラである。本研究は農村部、特に過疎地域医療の中核に位置する公的病院について、先進事例である岩手県沢内、藤沢両モデル、島根県隠岐モデルを経営面、財政面から光をあてて分析した。

本研究から導かれた結論は以下の諸点である。第1に、公的医療供給と経営の効率化を両立させなければならないが、そのためには、公的医療機関や行政の幹部のリーダーシップ、医療・保健・福祉従事者全体のチームワーク、住民・住民団体の一層の協力・連携システムの構築において、一層の創意工夫が求められる。第2に、各地域の実情に応じて都道府県・市町村が経営面・財政面でフレキシブルに分担・協力し、チェックするシステムの構築が喫緊の課題となっている。第3に、医療、地域医療が持つ公共性、非市場的性格の点から、公的病院の経営赤字の背景を明確にし、これをふまえて国、都道府県、市町村は必要な財政措置を講じる必要がある。第4に、狭域の公的病院の経営主体は一義的に決定することはできず、市町村立、都道府県立、広域連合立、一部事務組合など地域的歴史的事情に配慮して関係自治体、地域住民が選択し、決定する問題である。

公的病院の経営悪化に対処するために、総務省は「公立病院改革ガイドライン」(2007年)を策定し、全国の自治体に公立病院の経営黒字化、それができなければ、縮小、統廃合を求めたが、この方向は農村地域医療を解体に導く恐れが強い。本研究の結論はこれに対するオルタナティブの提案である。

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