医療経済研究
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特別寄稿
医療経済研究へのプロペンシティスコア(傾向スコア)法の活用
~特定保健指導の経済評価の経験から~
岡本 悦司
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ジャーナル オープンアクセス

2013 年 24 巻 2 号 p. 73-85

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抄録

観察データからでも因果関係を証明できるプロペンシティスコア(傾向スコア、PS)法は、無作為割付のような実験が不可能な医療経済研究において有力なツールである。PSとは、たとえば特定保健指導といった介入に割付られる確率であり、同じ確率同士の介入群と対照群で比較すれば、それは疑似無作為割付のようになるので因果関係を推計できる。PSを算出する共変量は、介入とアウトカムより先行していなければならず、特定健康診査や質問票データは条件を満たしている。しかしPS法は「強く無視できる」割付条件が大前提であり、その条件を満たすように共変量を選択することが重要かつ困難な作業となる。条件を満たすかどうかは、適合度と判別精度で測定され、それぞれHosmer-Lemeshow適合度検定値とROC曲線のカーブ下面積(AUC)が1に近いほどよい。もっともAUCがあまり高過ぎると両群の重なりが小さくなって十分な標本数を確保できなくなる問題もある。PSを適切に計算できたら、1)マッチング、2)階層化そして3)共分散分析で評価する。マッチングは第一選択だが、マッチできず標本数が減少するのが欠点である。階層化は介入群と対照群のPSが重なっている全てのケースを使えるが、結果が一貫しなかった場合には解釈が難しくなる。共分散分析はPSを介入の有無と共に説明変数として回帰分析を行うものであるが、アウトカムが医療費のようにゼロの多い場合はトビットモデルを使うべきである。PS算出のためのプログラムは多数あるが、最重要な共変量の選択は研究者個人の知識と技術に依存している。観察研究では対照群の選定が命であり、対照群の選定が恣意的に行なわれると結果をどのようにも操作できる危険がある。PS算定の段階ではアウトカムを考慮すべきではなく、理想的にはPSマッチングを担当する者とアウトカムの評価を担当する者は分けた方が理想である。あるいは複数の研究者が同一テーマでPS法を適用し、システマティックレビューすることも一方であろう。

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