医療経済研究
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24 巻, 2 号
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巻頭言
特別寄稿
  • ~特定保健指導の経済評価の経験から~
    岡本 悦司
    2013 年 24 巻 2 号 p. 73-85
    発行日: 2013/06/24
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    観察データからでも因果関係を証明できるプロペンシティスコア(傾向スコア、PS)法は、無作為割付のような実験が不可能な医療経済研究において有力なツールである。PSとは、たとえば特定保健指導といった介入に割付られる確率であり、同じ確率同士の介入群と対照群で比較すれば、それは疑似無作為割付のようになるので因果関係を推計できる。PSを算出する共変量は、介入とアウトカムより先行していなければならず、特定健康診査や質問票データは条件を満たしている。しかしPS法は「強く無視できる」割付条件が大前提であり、その条件を満たすように共変量を選択することが重要かつ困難な作業となる。条件を満たすかどうかは、適合度と判別精度で測定され、それぞれHosmer-Lemeshow適合度検定値とROC曲線のカーブ下面積(AUC)が1に近いほどよい。もっともAUCがあまり高過ぎると両群の重なりが小さくなって十分な標本数を確保できなくなる問題もある。PSを適切に計算できたら、1)マッチング、2)階層化そして3)共分散分析で評価する。マッチングは第一選択だが、マッチできず標本数が減少するのが欠点である。階層化は介入群と対照群のPSが重なっている全てのケースを使えるが、結果が一貫しなかった場合には解釈が難しくなる。共分散分析はPSを介入の有無と共に説明変数として回帰分析を行うものであるが、アウトカムが医療費のようにゼロの多い場合はトビットモデルを使うべきである。PS算出のためのプログラムは多数あるが、最重要な共変量の選択は研究者個人の知識と技術に依存している。観察研究では対照群の選定が命であり、対照群の選定が恣意的に行なわれると結果をどのようにも操作できる危険がある。PS算定の段階ではアウトカムを考慮すべきではなく、理想的にはPSマッチングを担当する者とアウトカムの評価を担当する者は分けた方が理想である。あるいは複数の研究者が同一テーマでPS法を適用し、システマティックレビューすることも一方であろう。

研究論文
  • 鈴木 亘, 岩本 康志, 湯田 道生, 両角 良子
    2013 年 24 巻 2 号 p. 86-107
    発行日: 2013/06/24
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿は、福井県全県における65歳以上の国民健康保険加入者の医療費と介護費のレセプトデータ(2003年度から2007年度)を用いて、医療費と介護費の分布特性を調べ、それぞれ、あるいは両者を合わせた分布についての基礎的な知見を得た。一部の上位分位の人々の医療費が、全体の大半の医療資源を使うということは良く知られた事実であるが、本データにおいても、それが確認されることとなった。すなわち、要介護認定者のみのサンプルでは、上位10%で約5割、上位30%で約8割の医療資源消費が起きている。全サンプルの分析では、上位10%の医療資源消費は約6割にも達する。

    一方、介護費については、医療よりも集中度がやや低くなっていることがわかった。すなわち、上位10%で約3割、上位30%で約7割の介護資源消費にとどまっている(要介護認定者サンプルのみ)。さらに、医療費と介護費を合わせたベースでは、さらに分布の集中度は低くなり、要介護認定者サンプルでは、上位10%で約4分の1、上位30%で約6割の資源消費となっている。これは、上位分位において医療費と介護費に負の相関があり、相殺しあっている関係があるからである。

    次に、医療費と介護費の相関関係を調べたところ、菅原ほか(2005)と同様、全体としては弱いながらも負の相関関係があることがわかった。この負の相関関係は、やはり菅原ほか(2005)が確認しているように、入院患者や介護施設入所者といった資源消費の大きい人々による影響が大きい。施設入所者や入院患者を除いた在宅高齢者についてみると、医療費と介護費の関係は無相関か、若干ながら正の相関となっている。これは、単なる相関関係の分析だけではなく、SUR(Seemingly unrelated regression)を用いた統計的な分析によっても確認されている。

    最後に、2003年度から2007年度までの5年間の生存者サンプルを抽出し、医療費、介護費の集中度の持続性を分析した。9・10分位の医療費のその前後の変化をみると、大きく減少していく傾向があるが、介護費については持続性が高く、なかなか平均へ回帰が起きにくい状況がわかった。これは、2007年度から過去に遡及した場合でも、2003年度から将来にかけて追跡した場合でも、同様の傾向が観察された。

  • ―福井県国保レセプトデータによる医療費からの推計
    鈴木 亘, 岩本 康志, 湯田 道生, 両角 良子
    2013 年 24 巻 2 号 p. 108-127
    発行日: 2013/06/24
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿は、介護保険開始後も依然として解消していない社会的入院について、福井県全県の国民健康保険レセプトデータを用いてその規模の推計を行った。具体的には、福井県内の各市町の国民健康保険に加入する70歳以上の高齢者(無受診者を除く、通年資格者)について、2007年度1年間のデータを分析した。

    一般に用いられる社会的入院の定義は入院期間の長さによるものであるが、これは医学上の理由のある長期入院との区別ができないため、定性的に問題がある。そこで、府川(1995)にしたがって、長期入院者の1日当たり医療費から「基本料」を算出し、誤差を考慮して、その1.1倍を下回るものを社会的入院者と判定した。

    基本料の定義によって4つのケースを算出しているが、「入院者計に占める社会的入院者の割合」は7.5%~18.4%、「資格者に占める社会的入院者の割合」は1.9%~4.6%、「入院医療費に占める社会的入院者の入院医療費の割合」は6.9%~23.5%、「医療費計に占める社会的入院者の入院医療費の割合」は3.2%~10.9%と、現在も決して少なくない規模の社会的入院が存在していることが明らかとなった。もっともこれらの割合は、府川(1995)が福井県について計算した1993年度の割合よりも、約半分~2/3ほど低いものになっており、介護保険の導入などが社会的入院の減少に寄与した可能性がある。

  • 両角 良子, 鈴木 亘, 湯田 道生, 岩本 康志
    2013 年 24 巻 2 号 p. 128-142
    発行日: 2013/06/24
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は、居宅系の介護サービスとしてその役割が重視されていながら、提供主体が偏在する通所リハビリテーションに着目し、新たな提供主体の登場が介護費や介護サービスの選択に与える影響をレセプトデータから検証した。

    分析では、福井県の介護保険のレセプトデータを使用した。福井県では、2007年3月まで永平寺町・池田町・美浜町・おおい町の4つの町に通所リハビリテーションの提供主体がなかったが、2007年4月より、おおい町で、従来からあった介護老人保健施設が通所リハビリテーションと介護予防通所リハビリテーションの提供を始めた。そこで、永平寺町・池田町・美浜町の住人をコントロールグループ、おおい町の住人をトリートメントグループとし、2006年度と2007年度の介護費の平均値の比較や「差の差分(difference-in-differences:DID)」による推定から、新たな提供主体の効果を検証した。

    その結果、第一に、おおい町では、通所リハビリテーションの介護給付費が増加する一方、ほかの介護サービスの介護給付費の合計額がそれ以上に減少することが集計値よりわかった。そのほかの町では前後での変化は小さく、おおい町で観察された変化は通所リハビリテーションの提供開始によるものと考えられる。DIDによる最小二乗推定でも、通所リハビリテーションの介護給付費が平均して1ヵ月あたり約1200円増加する一方で、それ以外の居宅系の介護サービス等の介護給付費の合計額は、平均して1ヵ月あたり約5500円減少することがわかった。

    第二に、通所リハビリテーション以外の居宅系の介護サービス等では、通所リハビリテーションと同様に介護給付費が増加したサービスと、逆に減少したサービスが観察された。

    以上の結果から、通所リハビリテーションに関しては、まったく提供主体がなかった自治体内で新たに提供主体が現れると、通所リハビリテーションの介護給付費が増加する一方、それよりもはるかに、そのほかの介護サービスの介護給付費が減少することがわかった。これは選択可能な介護サービスの種類が増えたことで、利用者がより自分に合った介護サービスを選び、これまで生じていた必ずしもニーズに合致していない非効率な介護サービス需要が減少したものと考えられる。すなわち、介護サービスの提供体制の整備が全体としての介護給付費を下げた事例として注目すべきものと思われる。

  • 湯田 道生
    2013 年 24 巻 2 号 p. 143-156
    発行日: 2013/06/24
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿では、2012年2月に独自に実施した「喫煙に関するアンケート調査」の個票データを用いて、2010年10月に実施された過去最大のたばこ価格の上昇と、2011年3月に起こった東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)による国産たばこの短期的な供給ショックが、喫煙者の喫煙行動にどのような影響を与えたのかを検証した。実証分析の結果、いずれのショックもたばこ需要に負に有意な影響を与えていることが確認された。具体的には、2010年10月の価格増によって、喫煙確率は0.5%、一日当たりの喫煙本数は7.0%~7.6%、そして一日当たりのニコチン摂取量は約0.70mg~0.74mg(喫煙をやめなかった者に限定すると0.38mg~0.42mg)それぞれ有意に減少したことが分かった。また、震災に伴う供給ショックによって、喫煙確率は0.3%、一日当たりの喫煙本数は2.7%、そして一日当たりのニコチン摂取量は約0.33mg~0.34mg(喫煙をやめなかった者に限定すると約0.18mg)それぞれ有意に減少したことが分かった。

研究ノート
  • ~動学的パネルデータによる実証~
    立福 家徳
    2013 年 24 巻 2 号 p. 157-168
    発行日: 2013/06/24
    公開日: 2025/01/29
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿では、日本の20~40代女性のデータを用いて、社会経済的地位が健康格差を生み出しているのか、検証した。今回、特に20~40代女性に注目したのは少子高齢化が進む中、貴重な労働力として、未来の母親として、その社会的な役割は大きくなっているからである。そこで、職業状況や健康状態の変動を考慮した動的分析を行った。

    具体的には、㈶家計経済研究所から提供を受けた「消費生活に関するパネル調査」の2003年から2008年までの個標データを利用し、健康に関するアウトカムとして主観的健康感に注目したパネルプロビット分析を行った。動学的パネル分析においてWooldridgeの方法を用いることによって一致推定量を得た。分析結果から、一期前の健康、教育年数、働いていること、専業主婦であることが統計的に有意であった。この結果から、個人の健康状態は過去からの影響だけでなく、その決定には個人の教育年数や、職業状況が影響していることが確認された。

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