医療経済研究
Online ISSN : 2759-4017
Print ISSN : 1340-895X
研究論文
救急活動における病院収容時間と除細動実施が救命率に与える影響について:ウツタイン統計データによる2方程式プロビット・モデル分析
瀧本 太郎阪田 和哉中嶌 一憲生川 雅紀坂本 直樹阿部 雅浩
著者情報
ジャーナル オープンアクセス

2014 年 25 巻 1 号 p. 50-69

詳細
抄録

本論文では、2008年度のウツタイン統計データを用いて、救急活動の時間(具体的には、覚知(119番入電時刻)から病院収容(医療機関に到着し、医師に傷病者を引き継いだ時刻))が心肺停止傷病者の1ヵ月以内死亡確率に与える影響を分析するために、2方程式プロビット・モデルを用いて救命曲線の推定を行った。収容時間と救命率の関係を分析した先行研究として、橋本ら(2002)、Mashiko et al.(2002)、鮎川ら(2009)、Nishiuchi et al.(2008)、Kitamura et al.(2010)、坂本ら(2011)))などがあるが、坂本ら(2011)を除いて、地域を限定していたり、あるケースに対象を絞っていたり、また、回帰式が単純化されすぎていたりする。坂本ら(2011)では、11万件の全国規模のデータを用いて説明変数と1ヵ月生存確率の間に統計的に有意な関係を得ているが、1ヵ月生存したサンプルの再現性が非常に低いという問題がある。このため得られた救命曲線を前提として救急全体の施策を考えていくことには問題があると言わざるを得ない。1ヵ月生存確率の予測の向上を目的の1つとして、本論文では、病院収容前の心拍再開の有無が1ヵ月生存確率に影響を与えているということを明示的にモデルに組み込み、1ヵ月生存確率と心拍再開確率を被説明変数とする2方程式プロビット・モデルを構築した。本論文の目的は、年齢、性別、疾患などの状態をコントロールしたうえで、病院収容時間と救命率の関係を推定することにより救命曲線を導出し、また救急活動における除細動の実施が救命率に与える効果を推定することである。分析結果として、心肺停止傷病者に対する病院収容前の心拍再開の有無が1ヵ月以内死亡確率に与える影響が大きいことを定量的に明らかにし、心拍再開の有無、心停止の推定原因別、除細動実施の有無を考慮した救命曲線を導出した。心拍再開がない場合では、接触から病院収容までの時間が10分を超えると1ヵ月以内死亡確率は80%を超えること、心拍再開があった場合では病院収容までに30分かかったとしても1ヵ月以内死亡確率は30%程度であることを明らかにした。また、救急活動の際に、除細動が実施されたケースでどの程度リスク削減効果があったのかを推定し、市民による除細動の実施によるリスク削減効果が大きいことを示した。市民による除細動実施の期待限界効果は、心肺停止時の目撃の有無に関わらず救急救命士による除細動の約2倍であることがわかった。

著者関連情報
© 本論文著者

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 継承 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0/deed.ja
前の記事 次の記事
feedback
Top