医療経済研究
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研究ノート
医療保険財政負担軽減と研究開発インセンティブ低下抑制の両立に向けた政策検討における割引率の活用
-新薬創出等加算のシミュレーションによる経済分析-
和久津 尚彦中村 洋柿原 浩明
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2017 年 28 巻 2 号 p. 88-102

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抄録

医薬品が保険償還で賄われている限り、医療保険財政負担の軽減策と企業の研究開発インセンティブの増大策は相反する関係にある。しかし、日本が直面する厳しい財政状況だけでなく、今後の日本に必要な成長戦略や依然として残る満たされない医療ニーズを考えれば、研究開発インセンティブの低下を抑えつつ医療保険財政負担の軽減を図ることが重要である。そこで本研究は、企業の研究開発投資の意思決定の際に一般的に使われる割引率の概念を活用し、研究開発インセンティブの低下を抑えつつ医療保険財政負担の軽減を図る施策の在り方を、新薬創出等加算のシミュレーションによる経済分析に基づいて考察する。

具体的には、医療保険財政に中立的であることを加算適用後も累計薬剤費に変化がない状況と定義した上で、以下の点を考察する。(1)研究開発インセンティブ(企業側の加算のメリット) の低下を抑えつつ、医療保険財政中立に近づけるにはどのような政策が有効か、代替的な施策を比較・検討する。(2)割引率、薬剤の経済的特性、他の政策に関するルール変更やパラメーター変化によって、分析結果がどの程度異なるのか感応度分析を行う。

実際のデータを基に設定した仮想的な薬剤に関するシミュレーション分析から以下の結果を得た。(1)医療保険財政中立に近づける政策には大きく分けて、後発品上市後の薬価引き下げを拡大する方向性と加算額を縮小する方向性があるが、医療保険財政負担を同程度軽減する場合の研究開発インセンティブ低下率は、後発品上市後の薬価引き下げを拡大する方が約半分に抑えられる(財政中立にした場合、およそ補正加算3%に相当する違いとなる)。現行に近い仕組みを想定すると、その差はさらに拡大する。(2)後発品上市後の薬価引き下げを拡大する方が研究開発インセンティブの低下を抑えられるという傾向は、割引率が大きいほど顕著になる。他方、薬剤の経済的特性や他の政策に関するルール変更やパラメーター変化によっては、その傾向に大きな変化はみられなかった。

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