医療経済研究
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論文
労働時間種別による病院勤務医の夜間休日労働の勤務意欲にもたらす影響の検討
佐野 隆一郎橋本 英樹井元 清哉
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ジャーナル オープンアクセス

2019 年 30 巻 2 号 p. 68-79

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抄録

医師の働き方改革の中で、医師に対しても労働時間の上限規制が行われる方向となったが、医師の労働時間には法的側面や報酬的側面で評価が比較的高い実働時間や、評価が低い待機時間など、評価が異なる労働時間が混在しており、一概に同じ労働時間と扱う事はできない。そこで、本研究では、評価の面で特性の異なる労働時間が夜間休日労働の勤務意欲にもたらす影響の検討を行なった。全国の保険医療機関リストから無作為抽出した病院に勤務する常勤勤務医8822人を対象とし、説明変数を所定外実働時間と待機時間、目的変数を1ヶ月あたりの夜間休日勤務の減少希望回数として、Two-partモデルによる解析を行なった。所定外実働時間は夜間休日勤務の減少希望回数を有意に増加させ(P<0.01)、さらに待機時間も減少希望回数を有意に増加させた(P<0.01)。1時間あたりの影響力は、待機時間が所定外実働時間の約1.8倍であった。次に、待機時間のうち労働形態が大きく異なる当直勤務とオンコール勤務に関し、一定の報酬的評価がある当直勤務と評価が低いオンコール勤務の評価が、実際の医師の負担感と一致しているか比較検討を行うために、総待機時間のうちオンコール待機が占める割合を加えて同様の分析を行なった。その結果、オンコールの割合が高いほど現状維持を望む傾向があった(P=0.08)。一方で、減少を希望している者に限っては、オンコールの割合が高いほど減少希望回数が有意に多く(P<0.01)、勤務意欲が強く低下する事が明らかになった。現在の夜間勤務の回数に関しては、全ての解析において有意に減少希望回数に影響を及ぼしたが、対応する待機時間と比較すると待機時間が約2.4倍の影響力を持った。本研究の結果より、法的・報酬的評価の低い労働時間が必ずしも医師にとって負担が軽いとは限らず、労働時間規制において実働時間の規制のみが行なわれた場合や、待機時間を完全に除外して勤務間インターバルが設定された場合、医師の勤務意欲の低下を防ぐ効果は限定的である可能性が示唆された。今後の課題として、オンコールの定義をより明確にした上での研究や、特性が異なる労働時間が医師の職業ストレスや心身の健康に対してもたらす影響の分析を行なった上で、効果的な労働規制の検討を行う必要がある。

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