抄録
目的
超高齢化社会を迎えた日本では、近年、家族の介護や世話を担う若者が増加し、「ヤングケアラー」の問題として社会的に注目を集めている。本稿では、日本のヤングケアラーを対象に、国際指標として活用されているPANOC-YC20 を用いて、家族のケア役割とヤングケアラーの主観的認知(ケアに対する肯定的反応及び否定的反応)の関係を明らかにし、その結果をヨーロッパ諸国の先行研究と比較することを目的とした。
方法
日本全国のヤングケアラーを対象にウェブアンケート調査を実施し、ヤングケアラー816 名の個票データを得た。分析では、まず、ケアに対する肯定的反応と否定的反応のそれぞれについて、PANOC-YC20 指標を用いて点数化し、その点数によって一般のグループとハイリスクグループに分類した。また、ケア役割の各側面におけるPANOC-YC20 指標の平均値の差を検定した。さらに、回帰分析では、上述の肯定的反応と否定的反応の点数およびハイリスクグループに属しているか否かのダミー変数を被説明変数とし、最小二乗法とプロビットモデルを用いて推定を行った。
結果
本調査で対象としたヤングケアラーにおいては、ケアに対する肯定的反応の平均点数は8.805 点、否定的反応の平均点数は5.382 点であった。ハイリスクグループには、調査対象者全体の18.6%が分類された。また、最小二乗法を用いた分析においては、ケアの対象、ケアの負担、外部サポートの利用状況、家庭の経済状況やヤングケアラーの交友関係によってPANOC-YC20 指標の点数に有意な変化が見られた。さらに、ケアの対象や家庭の経済状況に応じて、ヤングケアラーがハイリスクグループに分類される確率も有意に変化したことが明らかになった。
結論
本稿が対象とした日本のヤングケアラーの場合、ヨーロッパ諸国の先行研究が対象としたヤングケアラーと比較して、ケアの負担、ケアへのサポート、家庭の経済状況、交友関係の状況に応じた主観的反応の変化に差異が確認された。日本のヤングケアラーを取り巻く状況の特徴を踏まえて、今後ヤングケアラーに対する社会的認識や社会的支援が広がる中で、ヤングケアラーや同居家族の実際のニーズに合った支援のあり方を探索することは必要不可欠である。