医療経済研究
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特別寄稿
医療制度改革の射程と課題 ―政策手法の有効性をめぐって―
遠藤 久夫
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ジャーナル オープンアクセス

2024 年 36 巻 1 号 p. 3-28

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抄録

 少子高齢化が進み、85歳以上人口の増加、生産労働人口の減少は、医療保険制度、医療提供体制、薬価基準制度に変革を余儀なくしている。本稿では、これらの制度の現状と課題、および今後の方向性について論ずる。特に、政策手段に焦点を当てて医療制度改革を展望する。

1.医療保険制度改革

(1)政策手段と特性

 〇主な政策手段は、診療報酬の改定、患者自己負担率の変更、保険料の変更。

 〇政策効果の不確実性は低いが、政策実行までの合意形成に時間がかかる。

(2)現状と課題 

 〇医療保険の効率性

 ⅰ)医療費の自然増(政策介入がない場合の医療費増加率)は低下している、ⅱ)診療報酬改定率はマイナスが続いている、ⅲ)高齢者の1人当たり医療費の増加率は非高齢者の増加率を下回っており高齢者の医療費は抑制されている、ⅳ)高齢者の医療費が介護保険にシフトしている有意な証拠はない、ということで、医療保険は効率的に運営されている。むしろ人件費や物価の上昇に対応できるか懸念がある。

 〇医療費負担の公平性

 1人当たりの純保険給付額(医療費-保険料-自己負担)の時系列変化をみると、非高齢世代は高齢世代より不利益が生じており、世代間の不公平が存在する。

(3)今後の方向性 

 高齢者の負担を増やす視点から、以下の議論がある。

 〇後期高齢者の自己負担率と保険料の引き上げは行われたが、今後、さらに引き上げるか。

 〇(高齢者の保有割合が多い)金融資産の額に応じて自己負担率や保険料を決めるか。

2.医療提供体制改革 

 (1)政策手段と特性

 〇主な政策手段は、診療報酬改定、補助金、規制的手法(医療法など)、情報提供による地域の「見える化」、教育・研修など。

 〇医療提供体制改革の対象は人(医師等)や施設(病院等)であるが、人は基本的人権により行動は原則自由であり、日本の病院は私立が多いため私有財産の処分には限界がある。

 〇医療提供体制の改革は地域の特性を反映する必要があるため、診療報酬改定など効果が全国一律の政策手段では限界がある。地域の課題を関係者が理解することが重要で、地域の「見える化」が重要。

 (2)現状と課題

 〇地域別の病床数の調整を目的とした地域医療構想は、全体としては概ね目標に近づいた。今後の地域医療構想の目的は、外来、在宅医療、介護を含めた合理的なネットワークを構築することに拡大する見込みである。この方針は正しいが、調整はかなり難しくなる可能性がある。

 〇都道府県単位での医師偏在は多少改善されてきたが、未だ不十分である。これまで偏在対策に効果があったのは入学試験の「地域枠」であった。今後、偏在対策を加速させる政策手法として、これまでのインセンティブから規制的手法へシフトすべきという意見もあるが、規制的手法の副作用についても検討すべきであろう。

3.薬価制度改革 

(1)政策手段と特性 

 〇薬価を引き上げる・維持する手段として、「高い加算率」「新薬創出等加算」などがある。

 〇薬価を引き下げる手段として、「費用対効果評価」「中間年薬価改定」などがある。

 (2)現状と課題

 低分子薬からバイオ薬等へのシフトに伴い、「良く効くが非常に高価」な医薬品が登場してきている。高額医薬品の薬価算定をどのように考えるかが課題である。

 (3)今後の方向

 「高い薬価をつけることが患者の優れた新薬へのアクセスが促進する」という製薬企業と「薬剤費を適正化することが安定的に患者の新薬へのアクセスを保障する」と保険者や医療団体の意見対立をどのように調整するかが課題である。

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© 2024 本論文著者

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