医療経済研究
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研究論文
生活習慣病に関する総合的な治療管理が避けられる入院に与える影響:後ろ向きコホート研究
森田 和仁笹渕 裕介佐藤 壮康永 秀生
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ジャーナル オープンアクセス

2024 年 36 巻 1 号 p. 68-80

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抄録

[目的]

40 歳以上の高血圧症・糖尿病・脂質異常症といった生活習慣病の重症化予防や管理においてプライマリ・ケアは重要な役割を担っている。Ambulatory care sensitive condition(ACSC)とは適切な外来診療を受ける事で入院を避 ける事のできる状態である。このうち適切な外来管理により避けられる、高血圧症・糖尿病・脂質異常症の重症化に 関連する入院は慢性ACSC に含まれる。プライマリ・ケアにおける生活習慣病の外来診療に関連した医学管理料に、 生活習慣病管理料と特定疾患療養管理料がある。しかし、これらの計画的な医学管理が患者の健康に与える影響につ いてあきらかになっていない。本研究の目的はプライマリ・ケアが行われる診療所において、40 歳以上の高血圧症・ 糖尿病・脂質異常症を有する患者に対するプライマリ・ケアでの医学管理が慢性ACSC による入院に与える影響に ついて検証することである。

[方法]

診療所において高血圧症・糖尿病・脂質異常症のいずれかに対して、初回の再診から5 ヶ月以内に3 回連続で生活 習慣病管理料または特定疾患療養管理料が算定されている40 歳以上の患者を対象とした。生活習慣病管理料を算定 した群と特定疾患療養管理料を算定した群で高次元傾向スコアによるマッチングを行い、群間でアウトカムを比較し た。主要アウトカムは慢性ACSC による入院とした。副次アウトカムは、慢性ACSC のうち、狭心症・心不全・糖 尿病・高血圧症による入院とした。観察開始日から2 年間を追跡期間としてカプランマイヤー法による生存時間分析 を行ない、群間差の検定にはログランク検定を用いた。

[結果]

 生活習慣病管理料を算定した群と特定疾患療養管理料を算定した群で、慢性ACSC による入院に有意差を認めた (11.0% vs. 14.7%, P=0.004)。また、狭心症による入院(0.5% vs. 0.8%, P=0.396)、心不全による入院(1.6% vs. 2.6%, P=0.084)、糖尿病による入院(1.1% vs. 0.6%, P=0.138)は群間に有意差を認めず、高血圧症による入 院(6.8% vs. 8.9%, P=0.041)のみ有意差が認められた。生存時間分析では慢性ACSC による入院で群間に有意差 が認められた(P = 0.004)。

[結論]

 診療所で40 歳以上の高血圧症、糖尿病、脂質異常症を治療している患者に対する生活習慣病管理料による診療は、 特定疾患療養管理料による診療と比べ、慢性ACSC による入院の減少と有意に関連していた。

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© 2024 本論文著者

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