医療経済研究
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特別寄稿
「開発され過ぎる」問題と「されなさ過ぎる」問題: あるいはローカルドラッグとドラッグ・ラグに関する研究
白岩 健
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ジャーナル オープンアクセス

2025 年 36 巻 2 号 論文ID: 2024.10

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抄録
目的:ローカルドラッグ(あるいはカントリードラッグ)は、日本国内でしか薬事承認・市場流通していない医薬 品を指す。一方のドラッグ・ラグ、ドラッグ・ロスは、海外で承認されている医薬品が国内で承認・流通しないこと の問題として、2000 年代前半より大きく取り上げられてきた。前者について医薬品が「開発され過ぎる」問題とす れば、後者は「開発されなさ過ぎる」問題である。本稿では、このような問題の現状について定量的に明らかにする ことを目的とする。
 方法:ローカルドラッグについては、日本で2017 年から2023 年に承認された医薬品を取り扱った。上記期間中 に、医薬品医療機器総合機構で承認された医薬品リストを作成し、米・欧での承認状況と紐付けた。ドラッグ・ラ グ、ドラッグ・ロスについては、FDA で新規化合物として2017 年から2023 年に承認された医薬品を対象とした。 これらの医薬品リストにIQVIA 社のMIDAS(Multinational Integrated Data Analysis System)データから抽出され た販売会社名、各国における上市日等を成分名ごとに付与して解析対象とした。対象は、独自に承認審査を行ってい る以下の10 カ国・地域とした。すなわち、欧州(ドイツで代表する)、イギリス、日本、スイス、カナダ、オースト ラリア、ニュージーランド、韓国、台湾、シンガポールである。
 結果:新規成分を含まない薬剤のうちローカルドラッグの割合は、全体で約4 割、内資に絞ると約6 割程度であっ た。開発は規模の小さい企業に集中している。新規有効成分含有製剤では全品目の約2 割、内資で約4 割が米・欧い ずれでも承認されていなかった。新規有効成分についても規模の小さい企業はよりローカルドラッグを生み出しやす い。再生医療等製品に目を転じると、医薬品よりもローカル製品が多かった。日本で初承認されても、全品目で約7 割が、内資に限れば約8 割が少なくとも米・欧いずれかの国では承認されていない。一方でドラッグ・ラグあるいは ロスについては、以下のような結果が得られた。日本におけるFDA 承認品目の上市割合は、欧州(ドイツ)やイギ リスには劣後するが、カナダやスイスと同程度であり、アジア・オセアニア諸国と比べればその割合はかなりの程度 で高い。現在問題とされている抗がん剤、オーファンドラッグ、新興企業開発品目においても傾向は大きく変わらな かった。日本の上市速度はカナダやスイスと同程度であり、アジア諸国と比べれば早期に多くの品目が承認されてい る。特に日本における抗がん剤の上市速度はドイツ・イギリスをのぞき最も早い。一方でオーファンドラッグについ ては、韓国を除き最も遅い傾向があった。
 考察:ローカルドラッグは、日本において一定の割合で存在している。また、今回検討を行った10 カ国・地域の うち、欧州(ドイツ)とイギリスを除けば、日本は最も医薬品アクセスが良好であることが示唆された。なお、ドイ ツは欧州でもっとも医薬品アクセスがよい国であることから、平均的な欧州諸国と比べれば、それらの国より日本は 医薬品アクセスがよい可能性もある。このような現状を踏まえて、どの程度の追加コストをかけ、どの程度までラグ やロスを解消するのか、その費用対効果も含めて検討していく必要がある。
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© 2025 本論文著者

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