本稿の目的はザンビアにおいて,農業政策の転換によって変動する食料生産に対する農民の対処を明らかにすることである。ザンビアではトウモロコシが最も重要な主食である。植民地政府が都市労働者への食料供給を目的としてトウモロコシ生産を奨励し,トウモロコシ栽培がザンビア全土にひろまった。ザンビアの小農はトウモロコシを主食作物としてだけでなく,換金作物として栽培することで現金収入を得ている。このトウモロコシ栽培は,政府からの補助金によって安価に供給される化学肥料を使用することで成り立っている。しかし政府の農業政策は,そのときの政治状況に大きく左右され,ときに化学肥料の遅配が発生し,トウモロコシの生産量は大きく変動する。本稿で取りあげるザンビア北西部では,先住のカオンデという民族がトウモロコシやモロコシといった穀物を中心に栽培する一方で,他地域から移り住んだルンダ,ルバレ,チョークウェ,ルチャジという民族の移入者たちはキャッサバを栽培している。穀類の端境期にカオンデは食料不足におちいるため,移入者からキャッサバを入手することで,日々の食料を確保していた。農民たちは政策によって大きく変動するトウモロコシ生産に依存するわけではなく,食料不足時にカオンデは移入者からキャッサバを入手することで,世帯および地域における食料の安全保障が確保されていた。