人文地理
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論説
先住民アイヌによる「記憶の場所」の構築―北海道・真歌山におけるシャクシャインの顕彰を事例に―
桑林 賢治
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2021 年 73 巻 1 号 p. 5-30

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抄録

先住民による「記憶の場所」の構築と,支配的マジョリティがそこに与えた文化的・社会的な影響を分析することは,先住民のアイデンティティと過去,そして場所の関係性を解明する一助となりうる。本稿は,アイヌによってシャクシャインに関する「記憶の場所」へと構築された北海道新ひだか町の真歌山を事例に,その構築がいかに彼(女)らをめぐるポストコロニアル状況に影響されていたのかを考察する。真歌山は従来からシャクシャインに対する顕彰行為の場であったが,1960年代末以降,和人のまなざしの影響を受けながら,アイヌ・アイデンティティと結びつく「記憶の場所」へと構築され,各地のアイヌを巻き込んでいった。その後も,アイヌによる和人のまなざしの受け止め方が変化するたびに,真歌山という「記憶の場所」は再構築され続けている。こうした動きには,文化的な喪失と同化を経験し,今なお和人のまなざしから解放されていない,現代のアイヌをめぐる文化的・社会的なポストコロニアル状況が映し出されていた。その意味で,真歌山は現代のアイヌを取り巻くコロニアリズムの残滓を反映した,ポストコロニアルな「記憶の場所」として位置づけられる。このようなコロニアリズムの残滓について,多様な解釈が存在することを想定し,それらを丁寧に読み解くことが,真歌山という「記憶の場所」の構築をより深く理解するためには必要である。

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© 2021 一般社団法人 人文地理学会
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