抄録
大腿皮弁は上腕皮弁の約1.7倍の厚みがあり, また, ややしなやかさに欠ける。この性状の違いが術後の機能に反映されるかどうかを検討した。舌癌半側切除後の欠損に対し, 前外側大腿皮弁を移植した7例と上腕皮弁を移植した10例 (内側5例, 後側4例, 外側1例) について, 術後6ヶ月を経た時点での機能評価を行った。両皮弁ともに会話機能評価 (広瀬案に基づく日本頭頸部腫瘍学会提唱法による) では十分な機能回復を示した。発語明瞭度は, 大久保らによる100音節リストで正しく発音された率で表わしたが, 上腕皮弁は36%~97%, 大腿皮弁は56%~92%とかなりのばらつきを見せたが, 平均すると両者とも80%弱であり, 差は認められなかった。ただし, 大腿皮弁移植例の方で異聴傾向が多彩であった。食物の口腔内貯留は約60%, 流涎は約30%, 固形物の嚥下障害は約30%と, 両群ともほぼ同じ頻度で自覚症状を認めた。
結論として, 今回の検討の結果では, 舌半側切除例の再建に関しては, 移植組織としての上腕皮弁と大腿皮弁との間に機能的な差は見出せなかったということであり, 両者をいかに使い分けるべきかという点に関しては皮弁採取部の好みにより決めるべき問題と思われた。