抄録
クマノミの生態について, 東京都下三宅島において1969年より1972年までの3ケ年, 特にそのなわばり制と闘争性に関する研究を行なった. さらに, 一般的な生活史についても自然状態ならびに水槽飼育により研究した. 対象となったクマノミ群は計37群, 延50時間にわたりほとんどスキューバを使用して観察した.
多くの群は1対の成魚によって構成されているが, 本種は生物学的には単婚性ではなく, これは共生するイソギンチャクの大きさによってなわばりの大きさが制約されるために生じた結果である.
クマノミは雌雄ともになわばりを持つが, それぞれのなわばりの性格は同様ではない、なわばりを維持するための努力は, 雄魚では外向的でなわばりの周縁部で侵入者を防ぐことに集中されるのに対し, 雌魚では内向的でそのなわばり内の雄魚に守られている巣孔に接近することに集中される. 雌魚のなわばりの面積は雄魚の場合の2倍以上を占め, その内には2個体もしくはそれ以上の雄魚の巣孔が含まれていることがある. 雌魚のなわばりの場所と面積は雌魚の順位によって定まるようである. 巣孔を侵入者から守るためには雄魚の方が雌魚よりもはげしくたたかう.
繁殖可能の状態となることが雌雄両者になわばりを形成させる主要な刺激となるらしい. 未成熟魚や順位の低い成魚はなわばりを形成しない.
水槽内に多数の個体を収容するといっそうはげしく闘争し, 個体間の順位は自然状態より明らかになる. 雌魚は雄魚より常に優位であるが, 自然状態では雄の優位性は雄に接近したときの微妙な行動で示される. 底生生物とプランクトンがクマノミの主要な食物である. 甲殻類は親魚が卵を守っていない夜間に被害を与える.
クマノミは13℃またはそれ以下の低水温に耐えることができるが, 冬季には半冬眠状態となる. その寿命は3~4年であろう.
クマノミが共生するイソギンチャクは三宅島では主としてサンゴイソギンチャクと稀にハタゴイソギンチャクに限られるようである. クマノミは夜間はイソギンチャクの着生している岩の問に深く潜むか, その触手の間に休んでいる.