輸送距離が異なる黒毛和種肥育素牛を対象に,輸送ストレスの評価を目的として,血液成分,被毛中コルチゾル(h-Cort)ならびに糞便中コルチゾル代謝物含有量(f-Cort)を比較した.供試牛は,長距離群7 頭と短距離群30 頭であり,それぞれの月齢および体重(平均±標準偏差)は8.0 ± 0.0 カ月および197.9 ± 34.0 kg,8.8 ± 0.7 カ月および300.4 ± 42.6 kg であった(月齢,体重ともに群間に有意差あり,p<0.05).長距離群は,沖縄県多良間島から山形県最上町までの約2,628 km(海路956 km,陸路1,672 km)を所要時間96 時間,短距離群は山形県川西町から最上町までの陸路約130 km を所要時間3 時間で輸送された.すべての供試牛は,家畜運搬用トラックに積み込まれ,1 頭当たりの収容スペースはそれぞれ0.93,1.00 m2 であった.検査材料として,被毛は頸部背側部から,輸送前と農場到着後72 日の2 回,血液と直腸便は農場到着時を加えた3 回採取した.その結果,輸送前と到着後72 日におけるh-Cort の平均値(pg/mg)は,長距離群が6.8 と11.7,短距離群が3.9 と1.5 であり,短距離群では有意に減少した(p<0.05).群間の比較では,長距離群が到着後72 日に有意に高値を示した(p<0.01).同様に,輸送前,到着時および72 日後のf-Cort の平均値(pg/mg)は,長距離群ではそれぞれ5.1,60.9 および37.7,短距離群ではそれぞれ30.6,28.8 および15.2 であり,長距離群では到着時に有意に増加し,短距離群では72 日後に有意に減少した(p<0.05).群間での比較では,長距離群は短距離群に比べ,輸送前に低値,到着時と72 日後に高値を示し,いずれも有意差が認められた(p<0.01または0.05).血液成分のうち,ビタミンA 濃度は両群とも輸送前に比べ到着時に有意に低値を示し,FFA は到着時に有意に高値を示した(p<0.05).特に長距離群におけるFFA の上昇幅は,短距離群に比べ大きかった.以上の成績より,長距離輸送は牛に対してより大きくかつ持続的なストレスを与えた可能性が示唆された.