本稿は、日本の裁判員裁判に関する公判前報道につき、裁判所が自由に視聴してよいとの立場をとることの問題点を心理学的な実証研究の知見を参照しながら指摘する。公判前報道とは、裁判に先立ってその裁判にかかる事件について報道されることを言う。国内外の実証研究の知見によると、公判前報道は陪審員や裁判員の判断に影響を与える可能性が高い。そして、一度影響を受けると様々な緩和策によっても取り除くことは難しい。したがって、現状の日本の最高裁の考えのように、公判が行われている期間に裁判員が事件報道に無限定に接する事を公に認めるという扱いには問題がある。実証研究の結果を前提とすると、少なくとも裁判に関わる判断者に対して担当事件の報道に接することを自制するよう依頼することが望まれる。現在市民はスマートフォンでいつでもインターネットに接続でき、ニュース情報をいつでも入手できる状態にある。したがって裁判所は公判前報道の影響について裁判員となり得る市民に注意を喚起し、裁判に与える影響を最低限に抑えることが必要になると思われる。