抄録
われわれは, 多数歯に及ぶ歯性病巣が原因と思われる感染性心内膜炎 (infective endocarditis: 以下IE) から, 僧帽弁閉鎖不全症 (mitral regurgitation: 以下MR) を併発し, 人工弁置換術へいたった症例を経験した. 患者は32歳の女性で, IEにて東京都立墨東病院感染症科に入院中, その感染源として口腔内病巣が疑われ, 歯科口腔外科へ精査依頼された. 口腔内には全顎に及ぶ連結暫間補綴物が装着され, 補綴物を除去すると残存歯はいずれも残根状態であった. 歯性病巣起因菌が原因と思われるIEの診断にて抜歯治療を勧めるも患者から治療を拒否され, 歯科未治療のままIEが緩解し43日後に退院となった. 退院4か月後, IE後のMRに進展して再入院となり, 人工弁置換術の術前処置として残存歯をすべて抜歯した. 処置後, 人工弁置換術施行され経過良好にて入院58日後に退院となった.