抄録
甲状腺機能亢進症の全身症状には, 悪寒を伴う弛張熱, 動悸, 頻脈, 多汗, 不安障害などがある. 今回私たちは, 亜急性甲状腺炎に罹患後甲状腺の機能は回復したものの, 甲状腺機能亢進症様の自覚症状が残存し, その結果, 口腔疾患の治療と予後に影響を及ぼしたと考えられた症例を経験したので報告する. 患者は亜急性甲状腺炎の治療を受けたが, 治癒後も甲状腺機能亢進症様の自覚症状が残存した51歳の女性. そのため5年前から下顎右側に腫脹と疼痛を認めていたが, 診断や治療に対する不安のため歯科受診をためらっていたと思われた. 下顎の腫脹と疼痛が悪化してきたため歯科受診したが当院紹介された. 私たちは口腔内の状態およびX-P, CT, RIなどの画像から右側の下顎臼歯部の根尖病巣から継発した下顎骨骨髄炎と診断した. 抗菌薬の投与後, 急性炎症症状は消失した. しかし顎骨の手術および抜歯の必要性があったため, 説明し同意を得て臼歯の抜歯および皮質骨除去術を施行した. 診察の遅れはそれに引き続く治療に影響を与えたと思われた. もしもっと早く診察を受けていれば, それらの手術は不必要であったかも知れない. 私たちは甲状腺機能障害の既往を有する患者を治療する際, 引き続き生じる甲状腺機能亢進症様の精神症状に注意を払うべきであると考えられた.