抄録
患者は87歳の女性, 左側下顎歯肉癌の診断のもと下顎区域切除, 上頸部郭清術およびプレート再建術が全身麻酔下で施行された. 既往歴に, 左側顔面神経麻痺, 甲状腺腫があるが, 特に加療は行われていない.
前投薬として硫酸アトロピン, ミダゾラムを筋肉投与した. 導入は, 亜酸化窒素, 酸素, ミダゾラムとペンタゾシンを用いたm-NLAで行い, 維持は亜酸化窒素, 酸素, セボフルランで行った. 術中は特に問題なく経過し, 手術時間7時間25分で無事予定処置を終了し, 麻酔からの覚醒は順調であった.
帰室約3時間後, 多弁, 多動等の不穏状態を呈したので, ミダゾラム5 mgを筋肉投与し良好な鎮静が得られた. しかし, 帰室後約7時間が経過した時点で, 創部の浮腫および出血が原因と考えられる気道閉塞により, 自発呼吸不能となった. 直ちに気管切開を行い, 自発呼吸は再開したが, その後, 再び体動などの不穏状態を呈し始めた. ミダゾラムを4回 (計10mg) 追加投与したが良好な鎮静状態は得られず, 自発呼吸不能に伴う脳の低酸素状態による障害を考慮し, サイアミラールナトリウムの微量点滴投与約2mg/minを開始した. 約18時間継続し, 計2000mgを投与した. その間, 良好なコントロール状態のもとに, 投与中止後約9時間で意識清明となり, その後, 何ら特記すべき症状は認められなかった. サイアミラールナトリウムの脳保護作用は, 他に類をみない特長であり, 今回はその特長を含め, 術後鎮静における本剤の有用性を再認識した症例であった.