2004年のわれわれの報告においてワーファリン
®服用患者の後出血の影響要因をロジスティック回帰分析した結果, PT-INR値, 1回抜歯数, ワーファリン
®の調節方法が独立変数として選択された. このことから, ワーファリン
®服用患者の抜歯にあたっては抗凝固レベルだけでなく, 侵襲程度や創部面積, ワーファリン
®の調節方法が後出血に影響することが示唆された.
この結果を受けて, ワーファリン
®服用患者の抜歯後の出血状態をより客観的に評価し, 抜歯後の経過を分析する目的で, 2003年1月から2005年5月までに当科を受診し, 抜歯を要したワーファリン
®服用患者 (以下, ワーファリン
®服用群) 43名 (男性19名, 女性24名) および出血要因のない患者 (以下, コントロール群) 41名 (男性11名, 女性30名) を対象として, 抜歯前, 抜歯翌日, 抜歯1週間後 (抜糸前) に唾液潜血試験を行い, 結果を (-), (±), (+), (++) の4段階で判定した. その結果, ワーファリン
®服用群とコントロール群との間に抜歯翌日, 抜歯1週間後 (抜糸前) で有意差を認めた. さらに, 両群を抜歯部位により, 中間部, 最後方部の2分類して, 唾液潜血試験との関連性を分析した. その結果, ワーファリン
®服用群における最後方部の抜歯症例では, 抜歯前と抜歯1週間後 (抜糸前) の判定結果の差 (変動) で有意差を認めた. これらの結果から, ワーファリン
®服用患者では, 抜歯後も1週間程度潜血が持続している症例が多く, 再出血を起こしやすい状態にあることが示唆された. また, ワーファリン
®服用患者の最後方部での抜歯症例で最も唾液潜血が持続しやすいことから, 抜歯窩の圧迫条件が止血に影響することが示唆された.
今回の調査より, ワーファリン
®服用患者の抜歯後の経過を客観的に把握するために, 潜血試験紙は有効であると思われた. また, ワーファリン
®服用患者の抜歯については, 全身的リスクを考慮すると, 可能な限り維持量継続下で行うのが適当であるが, 今後は, 凝固レベル以外の出血要因を適切に診断したうえで, それぞれの抜歯状況に応じた治療計画作成のための基準が必要であると思われた.
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