抄録
45歳, 女性. 5年前から原因不明の発熱と頭痛があったが, 仕事に従事していた. 1年前, 39℃の発熱と左肘関節痛があり, さらに胸部X線で左上肺野に類円形の浸潤影が指摘された. 血沈も亢進していたので肺結核と診断され, 抗結核剤と抗生物質が投与されたが, 改善されなかった. 気管支造影により, 左B1+2cやB1+2bの一部に紡錘形の気管支拡張があり, 左肺上葉切除が行われた. その後の経過は良好である.
切除肺組織では, B1+2cやB1+2bの一部にやはり紡錘形の気管支拡張があり, 粘膜面は潰瘍を形成し, 慢性気管支炎の像を呈していた. 内腔には Aspergillus の菌糸が存在し, 壁の炎症巣では, Aspergillus の菌要素が多核巨細胞によって貪食されている像もあった. また, これら気管支の中枢側と末梢側に狭窄があり, さらにその末梢枝に同菌糸の充満している部分があった. しかし, 結核性病巣や空洞はなかった.
本例の背景に全身的な防御能の低下や喘息などのアレルギー状態もなく, いわゆるアレルギー型の肺アスペルギルス症の組織所見には相当しない. 病巣がやや多発しているが, 局所的な気管支粘膜の障害を足場に Aspergillus が生着して, 一次的な気管支肺アスペルギルス症が成立したものと考えられる. このような症例から, 先行疾患の空洞を足場にしない, いわゆる一次性の aspergilloma が形成される可能性も考えられる.