抄録
目的 : 近年, 超音波診断装置の進歩などにより小さな肝細胞癌を発見することが可能となったが, 典型的な超音波像を呈さない例も多く, また, 術者による診断能力の差も存在するため客観性の向上のために定量的な診断手法の確立が望まれている. 肝腫瘍からのradio-frequency (RF) 信号はK分布にしたがうことが知られている. K分布は不均一性部からの後方散乱信号の統計的性質を特徴づけるために用いられている. そこで肝血管腫, 肝細胞癌よりRF信号を取得しK分布のパラメータであるφ (RF信号の振幅の二乗平均) とα (有効散乱体個数を算出し肝腫瘍の定量的評価) について検討した. 対象 : 肝血管腫10例10結節, 肝細胞癌24例27結節である. 方法 : 超音波診断装置はALOKA社製SSD-1000を使用した. 肝腫瘍に一致したRF信号内に279点よりなる測定単位を設定し, このヒストグラムに最も適合するK分布のパラメータをχ2適合度検定を用い算出した. 結果 : φは肝血管腫で高値を示し両腫瘍間で有意差が認められた (p<0.05). αは両腫瘍間で有意差は認められなかった. 考察 : αは両腫瘍とも同等であったがφは肝血管腫の方が高値であり肝血管腫の内部には散乱しやすい状況が存在することが推定された. また, これらは従来から報告されてきている病理学的所見にも一致しておりK分布のパラメータを用いることで腫瘍の定量的評価が可能と考えられた.