抄録
肝性胸水とは,心臓,肺に明らかな基礎疾患を有しない肝硬変患者に見られる胸水の総称である.今回,我々は腹部超音波検査を行い横隔膜の欠損を認め,カラードプラ法で腹水の胸腔への移行を示す特徴的な所見が見られた肝性胸水の症例を経験したので報告する.症例は75歳女性,肝硬変の既往を有し,下血を主訴に受診,呼吸困難は訴えなかったが右胸水を認め入院.減塩食治療および利尿剤投与にて改善退院.二ヵ月後,息苦しさを訴え,右胸水の増加で再入院.腹部超音波検査で横隔膜の欠損を確認し,カラードプラ法ではこの欠損部位に腹腔から胸腔へ向かうジェット流を認めたため,肝性胸水と診断した.またその後の経過観察にてジェット流の変化が見られた.超音波検査は肝性胸水の診断およびその発生機序を考える上でも有用である.