抄録
妊娠・出産を通じて,循環動態はダイナミックに変化する.器質的心疾患を持つ多くの女性が安全に出産する一方,一部の病態においては,母児の生命も脅かすハイリスクなものとなる.しかしながら,先天性心疾患をとりまく医療の進歩や母体の高齢化を背景に,心疾患合併妊娠数は増加傾向にある.「心疾患を持っているから妊娠は一律に禁忌」とされていた時代は過ぎ,心疾患があってもより安全に出産できるような診療体制が必要とされている.心疾患合併女性の妊娠・出産においては,循環血漿量や心拍数の増加,血管抵抗の変化,凝固亢進,血管脆弱化など,妊娠による生理的変化を時間軸とあわせて理解し,心疾患合併妊娠の診療にあたることが大切である.妊娠リスクの評価に,心エコー所見は有用である.また,心エコー検査は,非侵襲的で胎児被爆を与えず,妊娠・出産の進行に伴い繰り返し評価できる,妊娠中に最も適した循環器検査である.心疾患合併妊娠では,妊娠前もしくは初期と,妊娠中の循環血漿量の増加がほぼピークに達する30週前後に心エコー検査を行い,あとはリスクや自他覚症状に応じて検査を追加することが薦められている.また,分娩後に心機能低下や弁機能異常の増悪をきたす症例があり,分娩後の経過観察も大切である.