2022 年 49 巻 6 号 p. 475-487
臨床超音波分野では,2000年代初頭の診断装置のデジタル化によって,定量超音波診断(QUS)技術の実装的な開発が可能となり,その後近年になって複数のQUS技術が実用化された.QUSでは,プローブ内の各振動子(素子)で受信される高周波(Radiofrequency: RF)エコー信号を解析することで各種の評価パラメータが算出され,組織性状との対応付けにより定量化される.しかし,超音波による生体組織の観察には様々な条件があり,理論値と実測値の乖離が避けられないため,画像特性やQUSパラメータを担う生体組織の物理特性(および病理学レベルの構造)との関係性の検証は十分に行われてこなかった.また,臨床応用におけるQUSの主な課題は,評価結果が画像情報の源であるRFエコー信号の取得条件に依存しており,さらに診断装置の型式や設定などによっても異なることである.本稿では,生体組織の減衰,音速,振幅包絡特性,および後方散乱係数を評価するための代表的なQUS技術の例を紹介する.また,これらの技術に関係する基礎研究および臨床応用の例と,QUS法を真の組織特性評価技術として確立するために現在推進されている取り組みについても紹介する.