2025 年 52 巻 4 号 p. 143-152
左室駆出率の保たれた心不全(heart failure with preserved ejection fraction: HFpEF)は,心不全(heart failure: HF)全体の70%近くを占め,心不全の主要なフェノタイプとなった.このHFpEFの有病率の上昇は「心不全パンデミック」に大きく関与している.心不全は進行性疾患であり,診断の遅れにより臨床転帰が悪化する可能性があることに加えて,ナトリウム‐グルコーストランスポーター2阻害剤やグルカゴン様ペプチド-1受容体アゴニストなどの薬物療法が登場し,HFpEFの適切でタイムリーな診断がより一層重要になった.しかしながら,HFpEFの診断は,うっ血の程度が乏しい患者では難しい場合がある.これは,左室駆出率(ejection fraction: EF)が正常であることに加えて,左室(left ventricular: LV)充満圧が安静時は正常であるのに運動時は異常になるというHFpEFの特徴に関係している.運動負荷心エコー図検査は,運動により誘発する左室充満圧上昇を同定し,HFpEFの診断に有用である.また,運動負荷心エコー図検査は,HFpEF患者のリスク層別化や運動耐容能,心血管系の応答の評価にも役立つ.最近では,原因不明の呼吸困難のある患者から早期のHFpEFを診断し,呼吸困難の原因を精査するための息切れ外来が注目されている.本総論では,HFpEFの診断・評価における運動負荷心エコー図検査の役割を解説する.