日本線虫学会誌
Online ISSN : 1882-3408
Print ISSN : 0919-6765
ISSN-L : 0919-6765
原著論文
冬期湛水が土壌動物相に及ぼす持続的な影響
-東北日本の一水田における土壌線虫群集構造より-
竹本 周平秋田 和則片柳 薫子浦田 悦子伊藤 豊彰齋藤 雅典岡田 浩明
著者情報
ジャーナル フリー

2016 年 46 巻 2 号 p. 45-58

詳細
抄録

地上の野生生物保全に対する水田の冬期湛水の有益性が示されているが、土壌生物への影響は検討されていない。そこで、東北地方にある試験水田:有機栽培+冬期湛水(WFO)、有機栽培のみ(NFO)、慣行栽培区(冬期湛水なし、化学肥料と農薬使用;CVN)において、1 年半あまりの間土壌を定期的に採取し、線虫の密度を推定した。また線虫の多様度を、リボソームRNA の18S サブユニットを対象としたPCR -変性勾配ゲル電気泳動分析によって評価し、34 の操作的分類単位を識別するとともに、Tobrilus spp. とHirschmanniella sp. が優占的であることを見いだした。統計分析の結果、0–5cm の土壌深度では線虫密度がWFO>NFO>CNV の順である一方、5–10 cm 深度での多様度はWFO<CNV<NFO の順であった。これらと土壌理化学性の分析結果とから、冬期湛水と有機栽培は、肥沃化により少なくとも土壌表層部の線虫密度を高めるが、冬期湛水は、より深い地点での土壌の還元化によって線虫の多様度を低下させる可能性があると考えられた。

著者関連情報
© 2016 日本線虫学会
前の記事 次の記事
feedback
Top