日本線虫学会誌
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最新号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著論文
  • 市石 宙, 新屋 良治
    2024 年 54 巻 p. 1-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/04/04
    ジャーナル フリー
    電子付録
    線虫は微胞子虫を含む様々な病原体と相互作用する。これま での研究で、ヨーロッパを中心に細菌食性線虫、動物寄生性線 虫、海産線虫を宿主とする微胞子虫が報告されている。しかし、 これらの報告の多くは偶発的な発見であり、新たな線虫感染性 微胞子虫の発見を目的に探索した例はヨーロッパにおける1報の みである。本研究では日本産の細菌食性線虫と糸状菌食性線 虫を調べることで、線虫感染性微胞子虫の多様性および新たな 線虫感染性微胞子虫の発見を目指した。その結果、細菌食性 線虫から12 系統の微胞子虫を分離し、その内1 系統(MKI37) は未同定種だった。MKI37 は、これまで微胞子虫の宿主として 知られていない線虫Distolabrellus veechi に感染していた。ま た、本研究は糸状菌食性線虫における微胞子虫のスクリーニン グも行ったが、糸状菌食性線虫から微胞子虫は検出されなかっ た。これらの結果は、線虫感染性微胞子虫が主として細菌食性 線虫で多様化していることを示唆している。
  • 勝田 あかね, 加藤 理紗子, 新庄 恵実, Roland N. Perry, 豊田 剛己
    2024 年 54 巻 p. 9-17
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/04/04
    ジャーナル フリー
    近年日本では都市近郊でブルーベリーの栽培が拡大している が、ブルーベリーの線虫に関する国内の報告はない。本研究では、 日本のブルーベリー圃場の植物寄生性線虫(PPN)の同定とリ アルタイムPCRを用いた土壌からの直接定量法の確立を目的と し、神奈川県と東京都の6 圃場から土壌を採取した。これら土 壌から線虫を分離し、Pratylenchus penetrans、Helicotylenchus dihystera、Meloidogyne incognita、Paratrichodorus renifer、Tylenchorhynchus claytoni、Criconema mutabile を分子生物学的に同定し、P. renifer、T. claytoni、C. mutabile 、H. dihystera に対し、リボソームRNA の内部転写スペー サー領域にリアルタイムPCR 用プライマーを新規に設計または 改良し、検量線を得た。これらの線虫のDNA 溶液を用いたリ アルタイムPCR による定量限界は、それぞれ20g 土壌中の密 度でP. penetrans:84.4、M. incognita:9.1、P. renifer:10.4、 C. mutabile:19.4、T. claytoni:1.6、H. dihystera:23.2 であっ た。またこれらのプライマーは、採取した土壌中の非標的PPN のDNAを増幅しないか、増幅してもCt 値34.3 以上のきわめ て低効率だった。本研究により日本のブルーベリー圃場に生息す るPPN が初めて同定され、その分子生物学的定量法が開発さ れた。
  • 松村 龍一, 山中 豪, 松田 陽介, 北上 雄大
    2024 年 54 巻 p. 19-27
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/04/04
    ジャーナル フリー
    電子付録
    線虫は樹皮から分離されており,地下部だけでなく地上 部を含めた森林全体の物質循環に寄与している可能性が ある.本研究は,地上部における線虫の分布と特異的な 分類を解明するため,1 m から10 m までの異なる高さの スギ樹皮に生息する線虫の分類群組成と優占している分類 群の分子系統学的位置を調べた.その結果,全ての樹皮 から線虫が検出された.全ての樹高で真菌食性線虫が 86% 以上と優占した.COI 領域にもとづく分子系統樹か ら全ての樹高の樹皮に生息するAphelenchoididae 科線虫 はブートストラップ値100%で同一Clade に位置した. SSU 領域にもとづく分子系統樹からブートストラップ値 92% 以上で3 つのClade に分かれ, 樹皮由来の Aphelenchoididae 科線虫はリターや土壌に生息するものと は別Clade に位置した.したがって,線虫は地上高10 m のスギ樹皮まで生息し,Aphelenchoididae 科線虫が優占 することが示された.さらに,Aphelenchoididae 科線虫 は樹高にかかわらず同一系統が樹皮に分布することが示唆 された.したがって,スギ樹皮に付着する蘚苔類が線虫の 重要な生息地であることが示唆され,樹皮の分解過程に は真菌食性線虫が間接的に関与することが考えられた.
短報
  • 坂田 至, 串田 篤彦
    2024 年 54 巻 p. 29-32
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/04/04
    ジャーナル フリー
    北海道札幌市内の天然林を対象とした線虫調査において、ハ ルニレの根圏土壌からHeteroderaと思われる球形からレモン型 のシストが検出されたが、検出した場所の植生から日本では未 報告のシストセンチュウ種であると考えられた。一方、ハルニレに 寄生するシストセンチュウH. vallicola がロシア沿海地方で発見 され、2001 年に記載されていたことから、今回見つかったシスト センチュウはH. vallicola である可能性があった。そこで、本 線虫の形態計測とシーケンス解析を実施した。シストおよび2 期 幼虫の形態計測を実施したところ、本線虫の形態計測値はH. vallicola のものと概ね一致した。また、本線虫のミトコンドリア DNA のシトクロームc オキシダーゼ・サブユニットI(COI)遺 伝子領域および、リボソームRNA 遺伝子の内部転写スペーサー (ITS)領域の配列を調査したところ、どちらもH. vallicolaと 最も高い相同性を示した。以上より、本線虫をH. vallicolaと同 定した。なお、本種の和名を「ハルニレシストセンチュウ」とす ることを提案する。
研究資料
  • 岡田 浩明, 北林 聡, 金子 政夫, 小松 和彦, 山岸 希, 藤田 裕樹, 植原 健人, 与謝野 舜, 酒井 啓充, 立石 靖
    2024 年 54 巻 p. 33-46
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/04/04
    ジャーナル フリー
    長野県原村の高原野菜産地でテンサイシストセンチュウ Heterodera schachtii が日本で初めて2017 年に発見され、 くん蒸剤による緊急防除が行われている。再発防止のた めの管理で考慮すべき点として、1)1 頭の雌がふ化特性 を異にする卵を産出することや、年1~2世代経過するこ とで発生消長が複雑になる、2)現地では好適寄主である ブロッコリーの栽培に特化した小規模農家が多い、3)ア ブラナ科及びヒユ科の作物に加えトマトにも寄生すること などをあげた。抵抗性の寄主作物は見つかっていないが、 各防除手段の効果については、くん蒸剤が少なくとも6 割、有機リン剤と2ヶ月の捕獲作物栽培が各々同じく4 割、 2 ヶ月の休耕が3 割、4 ヶ月の非寄主(セルリー、パセリ、 レタス、スイートコーン、ズッキーニなど)の栽培が1 割 程度土壌中の線虫密度を減らすと考えられた。以上の手 段を組み合わせて利用する輪作体系を提案した。
  • 酒井 啓充, 立石 靖, 北林 聡, 富田 祐太郎, 西本 淳, 与謝野 舜, 植原 健人, 岡田 浩明
    2024 年 54 巻 p. 47-50
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/04/04
    ジャーナル フリー
    日本未市販の葉ダイコン品種に対する接種試験によ りテンサイシストセンチュウ(Hs)抵抗性が示唆された 「KGM1804」(カネコ種苗)について、Hs に対する捕獲 作物として既に利用されている市販品種「コブ減り大根」 (タキイ種苗)と同等に利用できるか検証した。PET製カッ プ苗を用いて1,500 頭/ 株のHs 幼虫を接種したところ、 好適寄主のキャベツでは株あたり平均243 個のシストが 形成されたが、本品種および「コブ減り大根」ではシスト が全く形成されなかった。根滲出液によるHs のふ化促 進効果を検証したところ、「KGM1804」はキャベツおよび 「コブ減り大根」と同様にふ化促進効果を有していた。ま た、Hs 発生地域の圃場において本品種は「コブ減り大根」 と同等以上に生育した。これらの結果から、本品種が「コ ブ減り大根」と同等の捕獲作物として利用可能であると 考えられた。なお、当該葉ダイコンは「シスクリーン」の 商品名で上市されることとなった。
日本線虫学会第31回大会講演要旨
第3回日韓線虫学シンポジウム講演要旨
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